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02.09.01(Sun) 荒野の決闘
 弾は一発のみ、それがルールだ。乾いた大地に立つ二人のガンマン、他には立ち会い人が一人いるのみ。なぜ決闘のになったのかは分からない、本人たちは何も語ろうとしない。神に祈りつつシリンダーに弾を込める、銃の発射音がどちらかのレクイエムになるだろう。太陽が照りつけ汗が地面にぽたりと落ちる。
 お互いの背中を合わせ、数を数えつつ十歩足を進める。一歩、二歩、足取りは重く地に足がついていない。十数えたとき百八十度回転し、腰から銃を抜き、相手に銃口を向ける。撃鉄を起こし、引き金に手をかけ力を込めると、銃鉄が落ちて火薬に火がつき、銃身をから弾が出る。本人にとっては長い時間を感じられるけれど、それはほんのコンマ数秒の出来事。打ち出された弾は互いのこめかみを掠たものの、傷を付けることは出来なかった。
 安堵のため息をつきその場を離れようとしたその瞬間、大音響と共に痛みが体を突き抜けた。うぅ卑怯者め、弾は一発のはずなのに。ゆっくりと倒れながら相手の顔を見ると、甘いんだよ、相手はそう言いたそうな顔つき。そうか、生き残るものは一人、それが荒野の掟。そうつぶやくと目蓋は閉じられた。誰も何も言わない、ただひゅーひゅーと風邪の音だけが響き渡る。


 薬を換えたらアラ不思議、今までの咳込みが嘘のように治まったので、昨日は久々にベッドから離れピアノ弾いたり料理作ったりしていたのです。そうしたら今日はまた風邪がぶり返し。あらら。ちょっとこの風邪をなめていたみたい。


 風邪が治りつつあるという安堵のため薬から離れた瞬間。風邪は僕の体を突き抜けるのです。薬はたった一回飲めば良いだけなんですけどね。またゆっくりとベッドに倒れ込む僕に、風邪はこう言うのです、甘いんだよって。ただひゅーひゅーと荒い呼吸音だけが部屋に響き渡ります。

WASHINGTON Cease Fire

 英語。銃を手軽に所持できる国っていうのはどうも理解しかねる。そりゃ銃犯罪も起こるよ。

02.09.02(Mon) 志願兵
 先ほどさる小国の防衛軍に志願入隊した若者、緊張の面もちで幕僚の式典挨拶を聞いています。この舞台挨拶が終われば、彼は晴れて名誉ある軍人に。
 緊張している彼を隣の席から横目でちらちらと見ている者、それは彼の友人です。彼が志願すると聞きつけ、一緒に入隊したのです。友人は外国からやって来て、この国に住み着いた移住者。母国語はこの国の言葉ではないし、それにまあ少々気性は激しく、言葉の壁もありましたけれど良いやつなので、すぐに仲良くなったのでした。

「えー、おっほん。我が国の防衛軍に志願した勇敢なる諸君。これから国のために誠心誠意尽くして欲しい。外敵は常に我が国の富を狙っておる、故に我々防衛軍が組織されたのだ。その誇りを忘れぬように!」

「あーあ、まったくつまらねー話だよな。みんなそんなのわかってんのに、なんでこんなお説教聞かなきゃならないんだよ。」

 何気ない愚痴、それが友人の最後の言葉でした。まさかその後永遠に会えなくなるとは。

 この国では余所からの侵略に備えて、防衛軍が国を守っています。平和主義のこの国では、外に対して戦争を起こすようなことはありません。しかし富める国の常でしょうか、諸外国の嫉妬や羨望のため大小さまざまな戦いを強いられてきました。そのたびに防衛軍が外からの侵略に立ち向かってきたのです。この国の繁栄は防衛軍の肩にかかっていると言っても差し支えありません。

 彼の配属先は国境警備、友人の方は国内巡回警備。どちらも日頃の巡回警備は欠かせません。国の隅々まで、まるで網の目のように細かいところまで目配りをし、不足の事態に備える。もう既に敵が侵入していない、とは言い切れないのです。
 外敵は悪魔のような連中なのです。一匹狼的にぶらりとやって来るものもあれば、連合を組んでやって来るものもある。たとえ少人数だからといって油断はなりません。なぜなら国の中にひとたび紛れ込むと発見するのは困難で、人や建物をいとも簡単に葬り去る事が出来る、そう殺しのプロだから。こっそりと忍び込み、見えないところから国民を葬り、建物を破壊し、国に人的物的な被害を与える。大国であれば国土の大きさからみて損害は微々たるものでしょうけれど、この狭く小さな国においては死活問題。ひとたびやられてしまうと取り返しのつかないことになるのです。

 二週間ほど前のある日、防衛軍の軍人が街道の外れで倒れていました。医者が駆けつけていたときには時すでに遅し、その者の息は絶えていたのです。体中が傷だらけになっており、一目で何者かと争ったとわかる。その魂を抜かれた朽ちた肉体の持ち主は彼の友人、一体誰が友人を殺めたのでしょう。

 調査が始まったものの犯人は見つからない。それどころか、次々と軍人が死んでいくのです。大がかりな組織によるものかと思われるのだけれど、どうしても足が見えない。そこで閣僚は友好国に助けを求め、いくらかの調査員を派遣してもらうと、どうやら敵国の仕業に違いないとのこと。
 それからは国を挙げて上へ下への大騒ぎ。軍人、民間問わずに謎の敵に対して立ち向かいます。葬り去られる人々、見つからない敵に対して焦燥感が募ります。

 しかし、最近ようやく騒動も収まってきました。国を挙げての防衛体制に恐れをなしたか、破壊活動は行われず、死傷者もいなくなり、平和が戻りつつあります。もうすぐ戦乱も収まり、復興に向けて足を進めるでしょう。

 町はずれに慰霊碑が建てられ、墓地の一角に戦死した友人の亡骸が葬られました。今後このような事態が起きぬよう、故人の墓を前にし、ただひたすら彼は祈っています。その墓の墓碑銘には「SPUTUM」、こう書かれていました。外国語なのでよく分かりませんが、きっと何か深い意味があるのでしょう。

 友人への思いを胸に、彼も一歩足を進めようとしています。



みんばのお店、天声人誤より

 体内で病原菌と戦った証たる痰。なんか風邪治ってきているような。少なくとも咳の数はぐっと少なくなってきたし。もう数日で治る気がする。しかし痰を天日干しにして炊き込みご飯ですか?僕は遠慮しておきますよ。

02.09.03(Tue) 水切り
 指先から離れた小石が水に触ると、投げられた勢いそのままに小石はぴょんぴょんと水面を跳ね、二つ三つと輪が出来る。木漏れ日と相まり、水はきらきらと光りを返します。そのうち輪も小さくなり、ゆらゆら揺れていた水面は静まりかえる。それを見届けると、そこらに落ちている小石を拾い水面に向かって投げるのです。これを何度くり返したのでしょう、辺りには小石がなくなってしまいました。

 薬が切れたので病院にもらいに来ました。病院に行くのはこれで三回目、何とも長くしつこい風邪でしょう。一日に三回、朝昼晩の錠剤。発作のように咳が続いたときに飲む、お腹すら壊すほど強力なとんぷく用咳止め。かさむ医療費。レントゲンに血液検査。何をやっても治らないいらだちよ。でもだんだん楽になってきてはいるんですよ、ゆっくりとではあるんですけれどね。あと一週間ぐらいで治るかなぁ。

 水面を跳ねる小石のように風邪は他の人にも移るよう。接触のある家族にも移ってきているようで、頭が痛い、腹が下ると言い始めています。すぐ医者に行くことを勧めているんですけれど、違う風邪だと言い張ってきかない。侮るべからず。

 ゆれにゆれた八月は終わり風邪は治りつつある。始めに出来た輪はだんだんと小さくなってきているみたい。だけれど跳ねた小石は次の輪を作り、また輪が広がっていくのです。そのうちその輪も小さくなり消えてなくなるでしょう。二度三度跳ねた小石もやがては水没し、水面は静まりかえるはず。やがてなくなる小石のように、薬もいらなくなくなるのかな。

必殺!水切りショット!!

Theory、無限脳より

 子どもの時に良くやった水切り。市の剣道サークル合宿で僕が水切りをしているとき、後頭部に石をぶつけたのは誰だったんだろう。余程のノーコンか、それとも誰かに恨みを買ったのか。小学三年生で?イジメとか喧嘩なんてしてないしなぁ。

02.09.04(Wed) 理想の機械
 あなたにとって理想の機械はなんですか?携帯電話、パソコン、ステレオ、ゲーム機。僕たちの周囲には様々な機械があり、その恩恵を大なり小なり受けてます。今から何の機械もない生活をしろ、と言われたらきっと困ってしまいますね。

 それでは僕にとって理想の機械は何かと聞かれれば、いろいろ思い浮かべますけれど、たぶん車と答えるでしょう。あ、別に車が大好きっていう事じゃないんです。別に高級な車に乗りたくもないし、スポーツカーやオープンカーを無理して手に入れようとも思いません。だって車をメンテナンスするのは面倒だし、運転するのはもっと面倒。仮に高いお金を払って手に入れたとしてもやれ税金だ、維持費だと金を食う。それに渋滞に巻き込まれて悩まされ、おまけに駐車場を見つけるのに四苦八苦。そんなの御免です、想像もしたくありません。

 金銭面は別にして、車内では面倒なこと出来る限り無くそう、環境を整えよう、といった配慮が車にはいろいろなされていて、それが理想的だと思うんですよ。まず体の姿勢。深くシートに着座し体を安定させ、かつ四方をうまく見渡せる。自然とハンドルは最適な位置になり、ヘッドレストは頭をきちんと支える。
 快適に走るための配慮はもっと周到です。ギアはマニュアルよりオートマ全盛になり、いずれレーシングカーのようにハンドルにギアがつくかもしれません。いちいち左手をサイドブレーキの方に動かすことなく、手元で全ての動作が制御出来るんですよ。
 運転だけじゃありません。冷暖房完備、心地よい音楽が流れ、僕は吸いませんけどタバコの火だってあるし、飲み物だってドリンクホルダーにちょいと手を伸ばすだけ。これはもう居住空間ですよ、快適空間っていうんですか?

 いまコンピュータでエディタを使い文を書います。足にはマッサージ、体はベッドの上で安楽、部屋にはバッハが流れ、アロマで脳もリラックス、おまけに冷房はドライで適温。もうこの上ない極楽気分、快適そのもの。惜しむらくは僕が風邪をひいて咳込みが激しく、外に行けないことでしょう。あぁ、もういい加減風邪治れ。本当に風邪なの?

 自室で理想の機械について書いてみましたけれど、僕の言いたいことは別にあるとみなさんお気づきかもしれません。

 外に出たくても出られないこの現状。理想的な機械である車に乗って外をドライブ、そういう理想の機会が欲しい。

MINI

 もし好きな車をあげるから一台選べと言われれば、それはミニだろう。ちと高いのが不満だけれどね。いや大いに不満だ。

Copen

 ダイハツにこんな車が作れるとは思ってもみなかった。失礼しました。最近乗りたい国産車は間違いなくコペン。軽のくせに値段高いけれど、妥協なきデザインにメロメロさ。

02.09.05(Thu) ホームラン松井
「ピッチャー、セットポジションから投げました。打った!大きい、大きい。ライトスタンド一直線だ。入った、入りました。ホームラーン!」

 野球ファンならテレビ中継は興奮しますね。特にひいきチームが勝っているとき、その興奮は通常時の数倍に達し、脈が速く打つのを感じられるほどの興奮ぶり。
 巨人の松井すごいですね。ホームラン四十本の大台を越え、このままホームラン王になりそうな勢い。それだけにとどまらず、打点、打率も好成績でシーズン終了時には三冠王になっていることでしょう。三冠王はバッターの頂点。その歴史を振り返ってみると、野村、ブーマー、落合、バースと蒼々たる顔ぶれ。ストライクゾーンが広がった本年、投高打低で投手有利になりました。そういう状況で打ちまくる松井、すごいじゃないですか。

 巨人戦がテレビに映っていますけれど、僕はビデオを見ます。前に録画しておいた映画です。四角いテープを慎重にビデオテープの中に入れ、テレビをビデオに切り替え準備完了。テーブルには冷たい麦茶、ちょっとしたお菓子。これからいよいよ映画が始まるという期待で胸はいっぱい。これから二時間心おきなく映画が見られる喜び。映画評はバッチリチェック済みで、いずれのサイトでも高評価。
 さぁいよいよです。手にしたリモコンのスイッチを押す時が来ました。

「ピッチャー、セットポジションから投げました。打った!大きい、大きい。ライトスタンド一直線だ。入った、入りました。ホームラーン!」

 ベースを回る松井。呆然とし、がっくりとうなだれる投手。スタンドはわき上がり松井コールが球場を埋め尽くし、巨人ベンチはお祭り騒ぎ。ホームランを打った松井に手荒い祝福。
 なんですか、これ。また野球延長なの?野球は投手戦に限ります。それも一対〇のゲーム。欲を言えば両投手ともノーヒットノーランの好ゲームで、もっと言えばバッターは早打ち。そうすれば九時までには試合終わりますからね、ビデオ録画だってうまくいきます。映画は、僕の映画は?僕の映画返せー!

 松井よ、迷うことなく大リーグに行って欲しい。そして日本人の底力をアメリカ人に知らしめるのだ。日本なんていう狭い舞台は似合わないぞ松井。だからすぐにでもアメリカ行ってくれ、そうすれば野球中継延長の可能性はぐっと減る。行かねば全国数千万の映画ファンが怒り出すぞ。いや、他の人が怒らなくても僕は怒る、怒りまくるぞ。輝ける明日(ビデオライフ!)のために、松井よ、僕がお前を葬らん。

Virtual Stadium 2002

フジテレビ、プロ野球インターネット生中継2002より

 野球は好きだけど、ねぇ。それよりも映画の方が大事。野球は九時過ぎたらあとはニュースだけで十分だよ、少なくとも僕には。どうにも民放放送っていうのは解せない。

02.09.06(Fri) あめ玉
 舌の上に小さなあめ玉。そっと口の中で転がすと、ほんのりと広がるハーブの香り。はじめは口内であちこち動いたあめ玉も、やがては溶けて消えゆく儚(はかな)さよ。消えてもしばらく味が残り、余韻をじんわり楽しむかな。それすら消えてなくなって、そのうち全てを忘れるでしょう。

 読書の合間にゆったりと安楽椅子に体を預けながら、あめ玉を口の中で転がしています。風邪を引いてから舐めるようになったハーブあめ、最近のお気に入り。溶けかけのあめってきれいなんですよ、照明を当てるとまるで琥珀のよう。手にとって見ることはしないですけれど、そういうのを想像しながら舐めるのって何となく好きなんです。ほら、好きなことを頭の中であれこれ考えると楽しいじゃないですか。
 
 ちょうど口の中で飴を転がしているとき、僕は頭の中には音楽がなっていました。まだ形になっていない旋律。母胎の胎児のように、まだ姿は分からないけれど、確かに存在するその手応え。琥珀の虫を見つめて古代に思いを馳せてしまうような、深く味わいのある曲になる、そういう予感さえありました。だんだん僕の心に大きく広がっていく旋律を、五線の上に認(したた)めよう。そう思いピアノのある部屋に向かい、五線紙を探します。
 風邪を引いて本調子でなかったから、作曲のためピアノに向かうのは久しぶり。いつもは用意してある五線紙ですけれど、どうにも見あたりません。あたふたと五線を探すために引き出しを開け、書棚を探し、ようやく五線紙を見つけます。ト音記号とハ音記号を書き、いざ音符を置こうとしたところ。旋律はすでに僕の頭から消えていました。

 舌の上にあったあめ玉も今はなく、ほんのりとハーブの香りだけが残っています。頭の中にあった旋律も、いつの間にか消えてなくなり、後にはおぼろげな残滓(ざんし)だけが残されました。一生懸命再現しようとするものも、全く形になりません。しかしながら、それもまた楽しいのです。

 ハーブの香りも旋律も、余韻をじんわり楽しんで。やがてそれすらなくなって、そのうち全てを忘れるでしょう。消えゆくものたちよ、哀しいかな、儚いかな、そして何より美しいかな。

Candy Park

カンロより

 この二週間というもの、ものすごい数ののど飴を舐めました。一日一袋を最低ラインとすると二十袋は堅い。僕の血はのど飴で出来ている、と言ったとか言わないとか。

02.09.07(Sat) 脳読みと呼ばれる男
 目をのぞき込む。魔法使いが水晶を見るように、相手の目をのぞき込む。すると目の奥にあるもの、つまり脳を、思考を読みとることが出来る。よく言うじゃないか、目は口ほどにものを言うってさ。だから何も語らなくてもいいんだよ、語る必要なんかない。お前の考えていることなんかわかってしまうんだから。どれ、ちょっとこっちを向いてごらん。すぐにでもかわいいお前を、お前の脳を読み取ってあげるから。

 やさしい顔をしている男だけれど、人の目を見るときは真剣だ。気を強く持ち冷静でいないと相手の考えが自分の脳に逆流して、オーバーヒートしてしまう危険を孕(はら)んでいるのだから。失敗したときには相手の喜怒哀楽で男の感情が満たされ、正しい判断が出来なくなってしまう。それどころか、意識が相手に吸い込まれてしまい、正体をなくしてしまうことだってあるのだ。

 社会ではシャイで通っている男、普段は目をなかなか合わせようとしない。だって考えてもみろよ。そんなことをしたら無防備な相手の考えなどすぐに読めてしまうのだから。それに意識をしていなくても考えが読めることだってある。たまたま視界に入ったときに相手の意識が流れ込んでみろよ、誰だってパニックになってしまう。だからもし相手がこちらの目を覗き込もうとしたら、すぐに目をそらす。脳読みと呼ばれる男はそうやって日々を過ごしてきた。

 一本のビデオテープがここにある、調査テープだ。この中にはある事件の断片が収められていて、その渦中にいる人物の脳を見てほしい。とまぁ、そういう内容の依頼。依頼主の名は証せない。守秘義務というのがあるからな、それは了承して欲しい。では調査に取りかかろうか。

 ビデオデッキの穴にテープを乱暴につっこむ。画面をビデオに切り替えると、音楽がかかっていた。ふん、ご丁寧な事だ。編集までしていやがる。
 五十代、いや六十代だろうか。若ぶってはいるけれど初老の人物が画面に映る。無精ひげによれよれの服、頭脳労働者には見えないな。よし、では早速脳読みをするとしようか。
 そのみすぼらしい人物の目をじっと覗き込む。ええい、くそ。なんだかノイズが多いな。読みにくいったらありゃしない。だけれど男は長年脳読みとしてやってきた、この程度の事で怯(ひる)むはずがない。もう一度画面を舐めるように見、そのノイズ混じりの初老の人物の目を凝視する。

 老人の過去、現在、そして老人の思い描く未来。見える、見えるぞ。土地、関わってきた人物。見える、見えるぞ、ははははは!
 そうさ、男は脳読み。読めない物などありゃしない。だが男にも予想できないことがあった。そう、ノイズ混じりの老人を見過ぎてしまったのだ。まずい、感情が流れ込んでくる。入ったら二度と出てこられない底なし沼のような、得体の知れない暗い負の感情。まずい。あぁぁぁ、悲しみが押し寄せてくる!

 そう思った時にはもう手遅れ。あまりに流れてくる思念が強すぎたのだろう。男の意識はその場にはなく、ビデオテープの中に吸い込まれてしまった。


 男の意識はビデオテープに取り込まれてしまったのです。しばらく戻って来ることはないでしょう。聞いてください、僕はその調査テープを入手しました。
 男が何を見たのかを知りたくはありませんか?もしそうなら「再生ボタン」を押してみてください、きっと理由がわかるでしょう。

クリムゾン・タイド

 裏番組ではこれをやっていた。潜水艦という密室の中で起きる内紛と、テロリストによって起きる核の危機。外の緊張が潜水艦で縮小されて表現されているところなんか、良くできているなぁ。潜水艦ものはUボート、レットオクトーバーを追えなど、秀逸なものが多い。

02.09.08(Sun) キレる
 突然キレるヤツっているじゃないですか。人から見ると何の脈絡もなく、いきなりキレるヤツ。僕にはキレるヤツの心理なんて全くわからないんですけれど、本人にも何でキレたのか理由がわからないのでは。昼夜を問わず、いきなり何かに取り付かれたように暴れ出し、周囲に迷惑をかける。これは競争社会の弊害、欧化した食生活の影響などと最もらしく言われていますけれど、本当はどうなんでしょうね。

 キレるヤツっていうのを夜に見ちゃったんですよ、七時ぐらいだったかなぁ。何の兆候もなかったんですよ、キレるまでは。いつものように接していたんですけれど、なんでそんな事になっちゃうかなぁ。よくわからないな。
 音を聞いた気がしたんです。バチッともブチッともとれる、そんな何かゴムみたいなのが切れるような音。そんなの、ヤツの周りにいる誰も聞いていないって言うんですよ。二人その場にいたんですけれど、その二人とも聞いていないって。だけれども僕には音が聞こえたんですよ、それはもうハッキリと。

 それからです、ヤツの様子がいつもとすっかり違う風になってしまったのは。周りにいる僕らはなだめすかすのに必死でしたよ。だけれど、その場ではもうどうにもならないって事に気がついて、ヤツがキレるに任せたんです。まぁ、そのうちどうにかなるかもしれないって。えぇ、もちろん僕にはわかっていたんです。そんなの放っておいたらどうにかなるものじゃないことぐらい。だけれど、キレたヤツには何をしても無駄ですからね。

 ヤツをしばらくキレるがままにして、僕は買い物に行ったんですよ。だってキレたヤツに時間を使うのは馬鹿馬鹿しい。だってそうでしょう、こちらの話なんてまるで通じないわけですから。そうですね、三十分ぐらいだったでしょうか。まぁそのぐらい放置すればいいかなと思って。
 買い物から帰ってから、ヤツにあるものをあげたんですよ。そうしたら、キレていたのが嘘みたいに直ったんです。いやぁ、その様子を見せたかったなぁ。
 今までちょっと暗いヤツだと思っていたんですけれど、何だか前よりも数倍明るくなったような気がして。いや、気がするだけじゃないんです、実際に明るい。そんなヤツを見て僕はうれしくなりましたよ。

 僕の買ってきた物、他のキレたヤツにも有効だと思うんです。ですから、キレそうなヤツがいたら買ってあげると良いですよ。もちろんキレるまえに上げられたら一番いいんですけれどね。
 キレたヤツに良い物で、あげると明るくなる物。それは電球。切れたときには効果覿面ですよ。

The BICEPSMAN Website

 よっ、キレてる!バリキレてる!

02.09.09(Mon) りんごとカラス
 観賞用のりんご、ご存じですか?食べるために育てるのではなく、ただ遠くから鑑賞するりんご。赤く色づく実や白く可憐な花を咲かせるりんごを見るのが楽しみなんです。

 僕がそんなりんごに出会ったのは、今年の四月か五月ぐらいだったと思います。未だ実を付けていない細い幹を見て、あぁどんな実がなるんだろう、どんなにきれいな花が咲くんだろうと、毎日のように眺めてあれやこれやと想像をめぐらせ、一人悦に入っていました。
 雨の日もあれば風の日もある。だけれど悪天候にもめげず、すくすくと成長しているように僕には見えるのです。少しずつではありますけれど実は太陽の光を浴びて大きくなり、だんだん赤みも帯びてきたよう。それはりんご自身の成長の姿。皮はつやつやとして品が良く、芳しい香りが木の周りに広がり、誰もがその実に惹き付けられたのです。それは人だけではなく、カラスも同様でした。

 黒い目、黒い羽、そして何より黒い闇のような心を持つカラス。彼らは常にきれいなものを狙っています。きれいなビー玉、きれいな食べ物。甘く、芳しい実を付けた小さな紅玉。そう、きれいなりんごも例外ではありません。
 青く小さな時には見向きもされなかったりんごも、今や立派なもの。上からずるがしこそうな目でりんごを見ると一斉に飛びかかり、啄(ついばに)み、胃に収める。名残惜しそうにカラスたちが飛び回り、けたたましく叫いています。カラスなぜ鳴くの、それはカラスが身勝手だからです。

 芳しい香りをその場に残し、カラスたちによって荒らされた爪痕だけが生々しい幹。りんごを見始めた頃からの事を思い出すと、なんだかもの悲しくなります。
 何事もなかったかの如くあざ笑う、あな憎しカラスかな。石をカラスたちに向けて投げようとしても、あれに見えるは実を食べたのと違うカラス。どこに思いをぶつければ良いのやら。そんな気持ちを知ってか知らずか、りんごをあざ笑いカラスたちは鳴く。

 黒い目、黒い羽、そして何より黒い闇のような心を持つカラス。彼らは常にきれいなものを狙っています。上の方から傲慢に地上を見てこう鳴いています、次の獲物はどこだろか、きれいなものはどこだろか。醜いくちばしで啄み汚れた手でひっかき知らん顔。

 ふと実があったところに目をやると、その上に新しいつぼみが見えました。目の錯覚かもしれません。だけれど感じるのです、そこに新たな息吹を。きっといつしか花が咲き、また赤く芳しい香りの実をつけるでしょう。いつのことかわかりません。だけれど僕は待ちます、その日が来るまでどんなに時間がかかろうとも。

天国の花

 冷静なふりをして日常の出来事に無関心を装う僕。いつしかそれが当たり前になっていたのですけれど、ネット上の出来事でこんな気持ちになるとは僕自身意外でした。心の中で何かがざわめく。悲しい、そういう陳腐な言葉でしか表せなくてもどかしい。でも本当に悲しかったのですよ。また再びHPを見られて(しかもこんなに早く)我が事のようにうれしい!

02.09.10(Tue) 微妙な関係
 みんなから一目置かれる存在、それが彼でした。名前を書くのはいかがなものかと思われるので、仮にA君としておきましょう。A君はスポーツ万能、頭脳明晰、お金持ちでハンサム、まったく非の打ち所のないような人に見えます。実際クラスの女の子にモテモテで、彼の一挙一動を見守り、後を追いかける俗に言う追っかけ見たいな子もたくさんいましたから。女の子だけじゃなくて、男の子からも人望があります。みんな彼の意見には従います、まるで従者か執事のように。お金もちでいつも女の子に囲まれている彼ですから、彼のまわりには取り巻きたちがいっぱいいました。
 そんなA君ですけれど、一つだけどうにもならない物がありました。それは学校のマドンナとでも言うべき存在の女の子。仮にPさんとしておきましょう。Pさんはそれはもうたいへん美しく、その美貌は全校中に知れ渡っていました。美しいだけではなくて性格だってもちろん良く、男女の別なくみんな彼女を好きなんです。
 でもみんな噂していました、彼女は近づく者すべてを虜にする魔性の女だって。Pさんをモノにしようと、男の子たちが彼女の知らないところで火花を散らしているんですって。まぁ、噂は噂ですから、僕は気にも留めていなかったんですよ。

 そんな彼女は一年前ちょっとした緊張関係の中にいたんです、彼女のことにちょっと敏感な人ならみんな気づいていました。A君はPさんの事をすごく好きだったのに、M君がなにかと二人の間にちょっかいをかけてくるんです。まぁ、A君がM君を前々から挑発してきたのがいけなかったんだと、今は冷静に見られるんですけれど。

 M君の事にも触れなければならないでしょう。M君はA君とは同じ敷地内の別校舎で学ぶ学生。彼もやっぱり女の子にもて、頭が良く、お金持ち。だけれどA君とはいつも反発しあってきました。M君は人にすごく誤解されやすい性格で、他人を相容れないところがあるんです。そのくせ仲間意識が非常に強いといった、つまりは良くわからない人。彼の仲間になればわかるんでしょうけれど、あまりに接点がないし彼の考え方にはついていけないので、お互いを知ろうだなんて無理な話。まるで水と油、犬と猿、寄ると触ると喧嘩してという状態でした。直接的にやりあう事もたまにはあったのですけれど、お互いの取り巻き連中同士で喧嘩するなんていうのもしばしば。
 二人に関係のない僕はそれを遠巻きに見て、なんて救いようのない連中なんだろうといつも思っておりました。

 しばらくそんなピリピリとした雰囲気の中で学校生活は送られ、生徒全員そんなのにも慣れてきたある日。その二人が全面的な喧嘩に入りました。その規模は大きく、まるで学校を二分したかのよう。反対勢力をちょっとでも見かけるとすぐに罵り、石を投げたり、取っ組み合ったり。当初は仕掛けた側のM君に軍配が上がっていましたけれど、あっというまに形勢逆転。A君の一人勝ちで幕切れとなりました。いや、本当は喧嘩が終わったわけではなく、M君の側は虎視眈々とA君を追い落とす作戦を練っているみたいなんですけれど。詳しいところは当事者ではないので僕にはよくわかりません。
 僕にわかっている事と言えば、どうして学校を二分するほどの一大事になったかということぐらい。それは、二人ともPさんを狙っていたから、そういうことなんだと思います。そりゃあんなに美人でかわいくもあり、とっても優しい子ですからね。誰だって放っておく方が無理ってものですよ。まぁ、僕の推測なんですけれどね。
 それと、A君の影響力が日増しに強くなっていくのを見ていたM君が快く思わなかったというのもあるでしょう。もともと意地っ張りなM君ですから−−A君ももちろん意地っ張りですよ−−とうとう堪忍袋の緒が切れたのだと思います。


 Pさんは傷つけ合う二人を前々から悲しげに見つめていました、何でこの人たちはこんなに傷つけあうのだろう、二人のことを好きなのにって。ですけれどその一日ですべて彼女は悟りました。二人とも彼女の事が好きなのではなく、彼女を好きな自分というその格好が好きなのだということを。彼女を自分自身をよりよく見せる鏡に仕立て上げたかっただけだということを。
 お金持ちで、頭が良く、人望もあった彼らですけれども、まったく気づいていなかったのです、心は醜くゆがんでいることを。ハンサムなので鏡には立派な像が映るでしょう。ですけれど心までは鏡に映りませんからね。


 彼女の心は鏡のように割れました。粉々に砕け痛々しい、そんな彼女を見てみんなひどく傷つきました。なぜそうなる前にあの二人のことを見抜けなかったんだと、どうして二人を留められなかったんだと。事が起こってからでは遅すぎたのです、その日から数日もしないうちに彼女はどこか違う学校に転校して行きました。僕も彼女のことを好きな一人ですから、その後の彼女の事がすごく気になって仕方がありません。彼女は今どこにいるんでしょう。


 あれからずいぶん日が経ち、僕も前にあった出来事を書いても良い頃だと思えるようになり、今日ここにこの文を書きました。出来事を風化させないためにも必要な気がしますからね。あのときの事は鮮明に覚えています、事が起こった日付だってちゃんと覚えています、僕も彼女のことが好きでしたからね。あれは忘れもしない一年前の今日、九月十一日のことでした。

 それから後の事は蛇足となってしまうので語る必要もないでしょう。推して知るべし、といったところでしょうか。
 ただ僕はどうしても言いたい事があるのです、僕だって他の誰にも負けないぐらいPさんを好きだったのだと。彼女は去ってしまったけれど、彼ら二人を攻めるつもりもないんだと。憎しみは憎しみしか生まない、それだけを彼ら二人には言いたいのです。どうせ聞く耳持たないでしょうけどね。

米国での同時多発テロ

米国における同時多発テロ事件に対する中東諸国の反応、財団法人中東経済研究所より

 宗教や国の概念、貧富の差というのは悲劇を起こす。イスラム教は西欧社会に慣れた僕らには、あまりにも遠い存在。米国がテロ攻撃に晒されるのは仕方がない、とは言わないけれど、もう他国との関係を考えた方が良いのは事実。第三国(日本は日米安保理あるけどね)にはわかるけれど、米国民には見えていない気がする。何せ指導者ブッシュが一番見えてないんだもん、かなり終わってると思う。

02.09.11(Wed) 枷(かせ)
 目隠しをされた馬が走っています。脇に目をやることすら出来ず、命ぜられるままにただ駈ける。時には尻にむち打たれ、己の意志とは関係なく突き進む。それを見ていた馬主はすまないと思い、いつか必ず原っぱを走らせてやろうとつぶやいた。馬は狭い視界から馬主を見て、体を震わせ一度鳴く。そうかよしよし、早いところここから出してやるからな。

 競馬好きの友人宅に遊びに行きました。そんな彼のコンピュータのデスクトップはもちろん馬。厩舎で馬主が馬に餌をやる、そんな絵です。これからレースに出るのでしょうか、背中に鞍(くら)、目には枷(かせ)。目隠しをしないと馬は興奮し、騎手の意向と全く違うところに行く危険性があります。だから注意散漫な馬には枷、昔からの決まり事。馬はおとなしくしているようですけれど、きっとこう思っているに違いありません、自由気ままに駈けたいと。

 目隠しされているのは何も馬に限ったことではありません。彼の家のパソコンでメノモソのトップページを見せたら、どうにも狭い中央フレームじゃないですか。上と下のフレームに挟まれたそれは、日記を読みにくくすること限りなし。僕の家のディスプレイは彼の持つパソコンの画面よりも大きいので、今まで意識する事がなかったのです。メノモソ日記を楽しみにして下さるみなさま、申しわけありませんでした、悔い改め一両日中に改善する所存なり。

 フレームで目隠しをされたみなさまが、脇に目をやることすら出来ず、命ぜられるまま日記を読む。それを見ていた僕はすまないと思い、いつかフレームを取っ払うとつぶやいた。友人は狭い中央フレームを見て、体を震わせ一度言う。もっと見やすくならないかと。そうかよしよし、早いところフレームを撤廃しますからね。

パドックで馬を見る

サラブネット、初心者入門より

 年間一回ぐらいしか競馬やらないもんだから、よくわからんわ。賭け事には殆ど興味がないからなぁ。

02.09.12(Thu) かみなりさま
 空がぴかっと光り、雷鳴が轟く。それを見ていたおっかあは、子どもに向かって言うのです。かみなりさまがやって来た、いい子はきちんと腹隠せ。でなけりゃおへそを取られるぞ。それを聞いた子どもはあわててお腹を隠します。
 話に多少の違いはあるものの、誰でも一度は聞いたことがありますね。

 女子高生がきゃあきゃあとはしゃいでる。人混みから少しだけ外が見え、青白い光りがこぼれます。僕は椅子に座って本を読みながら、1/f揺らぎの理論によって眠気に誘われているところ。眠いながら本を読み、ぼんやりしながらかみなりを見たのです。文字の行列から目を上げて車内を見回すと、行列のような人の波。その殆ど全ての目が窓外のかみなりに注がれているよう。

 周囲に習って僕もかみなり見物と洒落込もう、本など家に帰っても読めるし。本を閉じ目を前にやると若い女性が見えました。二十ぐらいのお嬢さん、低いヒールに黒いスカート、シャツは白く、髪はセミロング。堅い職場に勤めているのでしょう、とってもフォーマル清楚な感じ。しかし彼女には他と大きく異なることがありました。僕はそれが気になって気になって、かみなりどころではありません。

 シャツのボタンが開いていて、大事な部分が丸見えです。僕の視線はそこに、その一点にのみもう釘付け。あんなにフォーマルな装いなのに、なんという格好なのでしょう。言うべきか言わざるべきか。言ったら言ったで問題あるし、言わなかったら言わなかったで辱めているような気がするし。

 空がぴかっと光り、雷鳴が轟く。せっかくの清楚な装いも、へそ出しでは台無しです。かみなりさまがやって来た、いい子はきちんと腹隠せ。でなけりゃおへそを取られるぞ。一度は聞いたことがありますよね、お嬢さん。

eAccess

 ADSLの普及で世界一ブロードバンドが安い国になった日本。僕の目は長谷川京子のおへそに釘付け。へーそう。

02.09.13(Fri) 甘い歌を聞かせて
 夏の強い太陽の光を吸い込んだような黒い肌、ホワイトチョコのような白い肌。コントラストを妙になまめかしく感じるのです。夏の日差しにも溶けなかったチョコレート、女に甘い歌を歌わせる。時間はたっぷり、秋の夜は長いのです。

 まずは触れるか触れないかという微妙な加減で愛撫。上から下までゆっくりとも指を這わせると、やらわかな吐息が耳に聞こえるのです。僕はときどきサディストのように爪を立てると、彼女から歯をかみ合わせたようなカチッという音。あぁ、すまないなと思いつつ、爪立てるのを止められない。子守歌のような、甘いあえぎを聞きたくて、僕はこうしているのかもしれません。
 彼女の体温は肌を合わせたときとても冷たかったのですけれど、僕の体温が移ったのでしょう、ほんのりと暖かい。とっても勤勉な僕だから愛撫の手は止まらない。さわっと触れていた指も、ふと気づけば軽く踊っているかのよう。手のひらに少し汗をかき、彼女のなめらかな肌を湿らせる。ふといたずらしたくて手を止めると、外を走る車の音が聞こえます。その機械的な響きが彼女の官能的な声と対比され、僕を恥ずかしい気持ちにさせるのでした。

 こちらがいい気になっていると、うんともすんとも言わない、空白の時間が訪れる。あぁ、ごめんよ。僕には指で満足させてあげられないかもしれない、そう心の中でつぶやく。すると彼女は何も言わないけれど、いいから続けて、という具合に訴えかけてくる。そう言ったということではないので思い過ごしなのかもしれませんけれど、ちょっとだけ自信を取り戻し、再び彼女の肌に誘われて、指を這わせる僕がいるのです。

 いよいよ激しく指を動かすと、激しい嗚咽が否が応にも僕に火をつける。大事な箇所は慎重に攻めなくてはいけません、外すと全てが台無しになってしまうから。はじめはゆっくりと、だんだんと指を二本三本と増やしていくのです。これ以上ないぐらい激しく彼女の体を揺さぶるように愛撫すると、部屋いっぱいに彼女の声が響きます。さぁ、いよいよこの時がやって来ました。クライマックス。全身全霊を傾け彼女に挑みます、目をとろんとさせ、恍惚の表情さえ浮かべながら。気持ちいい、迸(ほとばし)りの声を上げる彼女。
 終わってからも余韻が残っています。大事な部分から指を放す僕。部屋には彼女の声がまだふわふわと漂って、それがものすごく大事なものに思え、いつまでも彼女といたいな。なんて愚にも付かないことを考えるのです。

 僕は彼女から離れしげしげと体を眺める、こんなにも心地よく充実したのは久々です。夏の日差しにも溶けなかったチョコレート、女に甘い歌を歌わせる。甘く切ないメヌエット、アンティークなメヌエット。モーリス=ラヴェルの名曲メヌエット。僕はまたピアノに指を這わせる。時間はたっぷり、秋の夜は長いのです。

モーリス=ラヴェル

エスパス/ゼフィーロ -フランス音楽のウェブサイト、ギャラリィE/Z より

 ラヴェルは僕の好きな作曲家五本指の一指。じゃあ五人挙げてみろと問われたら困ってしまうんだけどね。

02.09.14(Sat) 名無しのごんべ
 その子は名無し、名無しのごんべ。名前がないから友達出来ず、いつも一人で遊びます。名無しのごんべは嫌われ者で、だけれどとってもさみしがり。誰かに名前を呼ばれたく、今日も友達遠くから、見ては一人で遊びます。名無しのごんべが道を行く、だけれどみんなで通せんぼ。あーあ、一緒に遊びたいなぁ。

 名無しのごんべが遠くから僕を見ています。僕は彼をよく知っているけれど、名前のない子とは遊べません。どこの誰かを知らぬ者と遊んではいけません、遊ぶと親に怒られます。物騒な世の中ですから、やっぱり心配になるのでしょうか。

 その子は名無し、名無しのごんべ。名前がないから友達出来ず、いつも一人で遊びます。非通知電話は名無しのごんべ、物騒な世の中ですからね。きっちり拒否して通せんぼ。だけれど大事なFAXで、僕は非通知拒否を解除して、今日だけごんべと遊びます。

ナンバー・ディスプレイ

NTT東日本バーチャルショップより

 非通知通話拒否にしたら、ぐっといたずら電話とセールスが減った。それはとてもいいんですけれど、非通知でかかってきたのが重要な電話だった場合。これは由々しき問題だな。

02.09.15(Sun) 金色の光りを浴びて
 金色の光りを浴びて颯爽と、どんなコブもものとせず、急斜面も何のその。速度があるにも関わらず、これ以上ないというほど加速して、男はそれでも華麗にすべります。跡には雪が舞い、眼前を目映く輝かせて、何とも言えぬ幻想世界。あまりの優雅さに僕はしばし言葉を忘れ、ただその動きに見とれるのでした。

 白い銀世界のようなピアノを制した彼の名は大導寺錬太郎さん、他に類なきピアニスト。今日のプログラムは本格的、何人ものピアニストが挑戦しては敗れている難しい曲と構成です。ベートーベンのワルトシュタイン、それだけで普通は満足なコンサートになるところ。それに加えてプロコフィエフのピアノソナタ七番が入っていると言えば、わかる人もいるかもしれません。それほど難しい曲と構成で、チラシを見たとき我が目を疑ったのですけれど。あまりに凄まじき腕の冴え、聞いたら鳥肌さえ立つほどの、驚愕の演奏になりました。

 金色の光りを浴びて颯爽と指は滑る、どんな難所もものとせず、跳躍も何のその。速度があるにも関わらず、これ以上ないというほど加速して、男はそれでも華麗に奏します。跡には音が舞い、眼前を目映く輝かせて、何とも言えぬ幻想世界。あまりの優雅さに僕はしばし言葉を忘れ、ただその指の動きに見とれるのでした。

Maurizio Pollini

CBC Radio,Great Pianists of the 20th Centuryより

 大導寺さんは間違いなく日本を背負って立つピアニストになると思う。ポリーニと演奏を聞き比べても遜色ないというのは決して誇張ではない。

02.09.16(Mon) がまの油
 知らざぁ教えてあげやしょう。取り出しましたるはがまの油、傷口に塗ればたちどころに傷はなおり、疣痔切れ痔、吹き出物、なんでもござれ。
 刀に塗っては切れものの、切れ味ぴたりと止める。お疑いじゃ仕方ありませぬ、見せてあげやしょう。手前の鈍物も刃物の端くれで、紙に歯を当てりゃすーっと切れる。一枚が二枚、二枚が四枚、四枚が八枚、八枚が十六枚、十六枚が三十二枚という具合でさぁ。しかし一度がまの油を塗りゃあ、さしもの天下の業物も紙一枚切れぬなまくらに。さあ、お立ち合い、お立ち合い。

 これはがまの油の売り口上。一度も聞いたことがないので想像なのですけれど、おそらく客相手にこんなやりとりをしているのでは。

 前々からコンピュータのあるソフトを友人夫婦に渡す約束をしていたのです。そんなに忙しくもなく体調も良いことですし、今日ではどうだろうか。そう思っていた矢先にメールがあり、家に招いてソフトを渡すことになりました。
 夫妻はデジカメを持ってやって来て、使用方法を教えて欲しいとのこと。僕が彼らにマックを勧めたこともあり、責任持ってアフターサービス。知ってることなら教えますので、どんな些細なことでも気兼ねなく聞いてくださいな。

 デジカメの中に入っていた画像は夫妻の飼うハムスター。それを使って、画像ソフトの使い方を説明しました。コピーしてペースト、それをまたコピーしてペーストというのを何回か繰り返し、一匹のハムスターは画面に増殖。それが大変気に入ったらしく大受けです。

 知らざぁ教えてあげやしょう。取り出しましたるは画像ソフト、これを使えばあっという間に素敵な画像の出来上がり。お疑いじゃ仕方ありませぬ、見せてあげやしょう。一匹が二匹、二匹が四匹、四匹が八匹、八匹が十六匹、十六匹が三十二匹という具合でさあぁ。一度ソフトを立ち上げりゃ、一匹のハムスターもあっというまに大増殖。さあ、お立ち合い、お立ち合い。

蝦蟇(がま)の油は効いたか

エルメッドエーザイ株式会社、お薬千夜一夜物語より

 がまの油の売り口上は、一度テレビか何かで見た覚えがあるけれど、それは小学生ぐらいだったか。なんだか曖昧な記憶だったけれど、大筋は掴めているのでよかったかな。でも本当に効くんですか?

02.09.17(Tue) 思いで語り
 とても記憶力が良い彼女。空に浮かぶ雲、絶え間なく打ち寄せる波、往来を行き交う人々。目にふれるありとあらゆる物を記憶する。どんなものでもハサミで切り取りとったように、胸の内に収めるのです。そんな彼女の話を聞くのが好きで、一緒に過ごした日々。
 僕はそんな彼女が好きだけど大事な話をしなくては。彼女を前にして、僕は机に頬杖つき、思い出語りにじっと耳を傾ける。

 良く晴れた日、あれは四月のことでした。川に魚が気持ちよさそうに泳ぎ、桜の下に僕がいて、花びらがメガネの上にひらっと落ちたよね。メガネを外してふっと吹き、桜がひらひらと空に舞う。彼女は僕に語ってくれました、そんな他愛もない瞬間が好きなんだと。

 空がとてつもなく高く入道雲が僕らを見下ろしていた日、あれは八月のことでした。潮騒がとてもうるさくて、声があんまり聞こえません。右、右、左、右。僕は棒を振りかぶり、降ろした所は砂でした。後からスイカを包丁で、割ったらスカスカまずかった。彼女は僕に言いました、棒できれいに割ったらおいしかったかもねと。

 落ちてきた雪が頬で溶けた日、あれは十二月のことでした。クリスマスケーキを箱に入れて持ち帰り、箱を持ち上げるとぐちゃぐちゃで。それを無言で食べたとき、涙が頬を伝わって。僕は彼女の涙をすくい取り、シャンパン代わりに飲みました。酔った僕は彼女に寄りかかり、しばらく温もり感じてた。

 そんな思いで振り返り、彼女は僕に語るのです。だけれど僕は言葉なく、さっと話を切りだした。新しい彼女が僕には出来たから別れてほしい。無慈悲な宣告にも物言わず、思いで残し彼女は去っていきました。

 僕の隣には新しい彼女がいます。新品のドレス来た女の子、華奢で白くてかわいくて。前の彼女と好対照、大きく黒く愛想なく。後で笑って語れるように、これから一緒に思いで作ります。
 新しい彼女の言葉は複雑で、わかりあえるまでしばらく時間がかかりそう。僕にはそういう時間もまた楽しく思えます。これから僕らはどんな思い出を作るのでしょう、いろいろな場所へいつでも一緒に行きたいな。

 そんな彼女を前にして、僕は机に頬杖つき、未だ日の浅い思い出語りにじっと耳を傾ける。

DSC-P2

Sony Cyber-shot OFFICIAL WEB SITEより

 僕の新しい彼女はコイツ。前のオリンパスのC-3030 ZOOMはいかんせん大きくて重すぎた。やっぱり小さい方がかわいいよ。

02.09.18(Wed) 足音は聞こえど姿は見えぬ
 ひたひたと僕をつけてくる足音。遠くでかすかに聞こえたと思ったら、もう真後ろにぴたりとつけている。足音は聞こえど姿は見えぬ、おのれ悪魔か妖怪か。こそこそしていないで姿を見せてみろ。

 姿の見えない何者だかわからない足音を聞いたのは昼のことでした。それ以降ずっと誰かに見られているような気がするのです。屋内外問わず感じるその視線、前にも何度も味わっているような。一度や二度ではないですから、こちらも神経質に成らざるをえません。
 こうなるともう何にも手が付かず、時間が過ぎさるのを待つばかり。コンピュータで作業をしていても、外で食事をしていても、電車の中でさえその視線を感じる。隙を見せまいと精一杯気を引き締めて、毅然とした態度で日中過ごし、大きな疲労感を伴い、今、やっと家にたどり着いたのです。

 這々の体で家に帰ってからも視線はますます強くなり、引き締めていた気も緩み、だんだん抗えなくなってきています。それは昼間のものとは比較にならぬほど強力な力を持ち、僕の精神の壁をだんだんと削ってきているかのよう。これ以上は耐えられないかもしれません。
 昼から気づいていました、あえて考えまいとしてきましたけれどもう駄目。僕はある魔物に体を支配され、魂まで奪われようとしている。まず十中八九、術から逃れる術はないでしょう。あぁ、僕は何もせぬまま負けるのか、まだやりたいことは一杯あるのに。こうなったら一刻も早く術に落ち、身も心も捧げ忠誠を尽くした方が身のためというもの。

 足音は聞こえど姿は見えぬ、おのれ悪魔か妖怪か。こそこそしないで姿を見せてみろ。そう心でつぶやくと、昼間から僕をつけ狙っていた魔物は不意に姿を見せたのです。
 あっ、やはりこいつだったのか。そう思った瞬間僕の意識は薄れ行き、ふわふわとどこかに拡散していく。その拡散する意識の中でとらえたその魔物の姿、それはそれは恐ろしいものでした。
 悪魔には大抵名前が付いており、僕を襲ったものにも名前が付いておりました。ベルゼバブとかベリアルなどの上級悪魔ではなく、下っ端の魔なんです。

 その悪魔の名は睡魔。人間をつけ狙い、眠りに落とす下級悪魔。一介の人間にすぎぬ僕は抵抗も虚しく眠りに落ちるのでした。

悪魔辞典

金糸雀、物の怪より

 悪魔崇拝などする気もないのだけれど、知っておくと良いことは確か。七つの贖罪やエヴァンゲリオンなどにも使われているのは周知の事実。西洋社会を読み解く鍵の一つかな。

02.09.19(Thu) 青色は世界中で一番好まれる
 青色のイメージ。これはどんな人にとっても、さわやかなイメージでしょう。知性や理性、積極性、清潔感、自制心。濃淡によっても変わってくるのですけれど、肯定的な印象を持たれることが多い色ですね。

 スペインの奇才ピカソ。彼には青の時代と呼ばれる時期がありました。青色は若い年代の希望に満ちた、輝かしい未来を予見させるのです。そして赤の時代へ誘因する力を青色は持っていました。
 マックスフィールド=パリッシュ。多くの人はご存じではないかと思いますけれど、彼の青はパリッシュブルーと呼ばれることもあります。青という色彩を生かした空気の質感たるや、その場にある埃までも閉じこめたみたい。
 地球は青かった。これは旧ソビエト連邦の宇宙飛行士ガガーリンが初めて宇宙から地球を見たときの言葉。真っ暗な宇宙空間の中、人類が初めて地球を見たときの感動がこちらにも伝わる名セリフ。いつまでも語り継がれることでしょう。

 朝起きてベッドの上から窓の外を見たとき、すぐさま青をイメージしました。これは青の世界、僕は何故かそう思ったのです。すこし雲は出ていましたけれど、空気はからっと乾いて気持ちよい。くるまれていた青いシーツから勢いよく出て、顔を洗い、メールを見るためにウィンドウズを立ち上げる。
 歯を磨きながらメーラーを起動し、サーバーからメールを読みに行きます。一件二件。ADSLなのでさくさく読み込めます。三件目は少し重そう、誰かが添付ファイルでも送ってきたのでしょうか。僕は窓を開け、夜の不浄な空気と朝の新鮮な空気とを入れ換える。そうしている間にメールは読み込み終わっていることでしょう。

 窓からパソコンのある場所へ戻り、僕は見ました。その汚された、目に飛び込んでくるようなどぎつい青い色を。アンチウィルスソフトが働き、メーラーによって運び込まれたウィルスが発見されたのです。朝のさわやかな目覚め、風、空の色。全てがこのことを暗示していたのでしょう。

 青色のイメージ。これはどんな人にとっても、さわやかなイメージでしょう。しかしウィルスによって犯されそうになったハードディスクはそうは思わなかったに違いありません。知性や理性、積極性、清潔感、自制心。そういう青色のイメージはふっとび、誰もいない部屋で呪いの言葉を吐きちらしながら、ウィルス駆除に僕は勤しむのでした。

AntiVir Personal Edition

林檎の木、システム、ウィルス駆除より

 ウィンドウズはウィルス送られてくるからどうしても対策が必要。無料ならば言うことないのだけれど、無料だとどうしても不安になってしまう人の性(さが)。マックもOSXでユニックスになり、前よりも遙かに狙われやすく危険になった。ウィルスなど送ってくるな!

02.09.20(Fri) 束の間の幻想
 朝日がまぶしい。秋の空気がとてもおいしく、みな生気に満ちた顔をしています。さぁ、今日も一日頑張ろう。頑張って町の発展のために力を尽くそう。住人すべてそう思っています。
 その町はここ数ヶ月で急に大きくなりました。ほんの半年前は何一つなかったのに、いまや立派な町。誰もが平和に明るく健やかに暮らしています。それもこれもみんな一生懸命に働いたからでしょう。大地の恵み、燦々と照らす太陽、それら全てが祝福してくれているかのよう。

 しかし、その平和と繁栄も束の間の幻想だったのかもしれません。

 ウィーンという凄まじい機械音、回転する歯が仲間をめがけて襲い来る。それに体の何倍もの大きさもあろうかという巨大な刀が、あちらこちらを切り刻む。戦々恐々、多くの者が事態を飲み込めないようですけれど、わかっている者もおりました。あれこそ噂のブッチャー、首切り屠殺人、冷酷無比の殺人鬼。すでに他の町もあの者の手により廃墟になったと聞く。捕まった者は別の場所に運ばれ、生きたまま焼かれることもあるという。虫けらのように仲間を葬るその姿に恐れをなし、散り散りになって逃げまどう。地下室へ潜って息を潜めるものもあれば、走って逃げるものも。抵抗すら出来ずに殺されてしまう者さえありました。
 チェーンソーは木々をなぎ倒し、町の建物を壊し、仲間を次々と殺していく。だけれど憎むべき殺人鬼の前に為す術なく、早く事が終わってくれるのを待つばかり。始めは聞こえていた悲鳴も今はなく、木々や町、仲間、そういう愛すべきものたちが消えていくのを見つめていました。悲しい、という感情さえあったかどうかわからなくなるほど非道な仕打ち。

 一時間ほどだったでしょうか。永遠と思えるほどの長い長い時間でした。惨劇を目の当たりにしたものたちは一様に怯え、恐怖し、破壊し尽くされた町を見て嘆き悲しむ。あれほど栄華を誇っていた町でしたのに、今や廃墟かと思えるほどの荒廃した景色が目下に広がっています。盛者必衰という言葉はこれを指し示すのか、あまりに惨い試練を神は与え賜う。

 夕方になり夜の闇が訪れた頃、一人の若者が町を通りかかりました。あまりに変わり果てた町の姿に呆然としている様子。それはそうでしょう、あれほど栄えていた場所が廃墟になってしまったのですから。その若者は何か言いたそうな顔をし、誰にも聞こえぬような声でつぶやきました。

「あぁ、市役所の人来て道路の雑草刈ったんだ。綺麗さっぱりしたなぁ」

すぐやる課

松戸市のホームページ、プロフィールより

 松戸市が全国的に有名だけれど、別の市町村でもこういうサービスやってくれるところがある。しかしスズメバチの巣を駆除する件数、松戸市では平成十二年度に千件近くあったというのに驚いた。お役所仕事も大変だ。

02.09.21(Sat) 秋、僕の中の虫が疼く
 この季節になると僕の中の虫が疼(うず)く。虫を飼い始めてどのぐらいになるのか、いつ僕の中に入ったのか、よく覚えていないのだけれど、そいつの存在に初めて気づいたのは小学校ぐらいからだったかな。その虫は体外から顔を出すことは出来ないので、他の人には気づかれない。犯罪を犯すわけではないし、僕を危険な目に合わすわけでもない。だからお互いにうまくやっているんじゃないかな。まぁ、虫と人間の共生関係なんておかしなものだけれど、自然界にはクマノミとサンゴイソギンチャクのような例もあることだし。

 虫はどうやら僕の五感を支配しているよう。僕としては自分自身の力で全てうまくやっている、と信じたいのだけれど、無意識のうちに行動を起こしているのを見ると、やはり虫に操られているのでしょう。だけれども悪い気はしない、虫が欲する欲求は僕の欲する欲求と一致するのだから。

 僕は人に議論をふっかけるなど無益な事だと思っているから、ひっそりと、出来るだけ目立たないようにしているのだけれど、虫はそうではないらしい。僕の口を借りて、親兄弟はもとより友人知人まで議論をぶつける。まぁ僕も思ったことを本当は口に出して言いたい事だってあるし、それに話をするのは嫌いじゃない。だからあえて虫に掣肘(せいちゅう)を加えるような事はしない。それにどうやって虫の欲求を抑えるか、その方法すら見い出せない。全ては虫の思うがまま。

 昔は議論が始まるとなかなか僕を解放してくれなかったのだけれど、最近は途中で切り上げる事も珍しくない。
 虫が言うには、一人の人間には大抵一匹の虫がいるらしい。中には二匹三匹と飼っている人間もいるし、また、一匹もいない人間だっている。だから人間を使って派閥のようなものを形成しているとのこと。ふーん、人間社会と一緒で大変なんだなぁ。だから途中で派閥が違うなー、意見が合わないなー、と思ったら、さっと話をやめて、同じ同士を見つけようとするらしい。なるほどねぇ。

 気のおける相手を見つけたら、話をするのが殊の外楽しいんだって。あぁ、僕だって虫がしている話は嫌いじゃないよ。どちらかというと好きなのかもしれないなぁ。人に感化されることって良くあるんだけれど、虫に感化されるのかな。それとも僕が虫を感化させているのかな。
 どちらにしても、僕と虫は共生しているのだから、そういったことはあんまり意味がないことなのかもね。僕は虫であって虫は僕だから。それが共生ということなのじゃないのかなぁ。言ってみれば運命共同体、僕が死んだら虫も死ぬし、虫が死んだら僕も死ぬのかもしれない。まぁ、虫に聞いたことないからわからないけど。僕が死んだら体から外に出て、他の誰かに移り住むのかもしれないな。僕は虫がすることが好きだし、虫の方も僕みたいな人間と共生出来て、案外幸せなのかもしれない。

 この季節になると僕の中の虫が疼く。そいつの存在に初めて気づいたのは小学校ぐらいからだったかな。虫は今日も僕の五感を支配する、お互いにうまくやっている。
 ゆっくりと味わうように本を読む、丹念に、紐解くように、字と字の間にある何かを感じながら。本の虫は今夜も僕を寝かせてくれそうにない。

海辺のカフカ

 村上春樹の新作。これよ読む前に、今までの小説をおさらい中。世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランドを読んでる途中。これと三部作とノルウェーの森を読んでおけば大丈夫かなぁ。実はまだ海辺のカフカ買っていないんだけれど、どうも虫がうるさいから買うかもしれないな。

02.09.22(Sun) 特化された道具たち
 古今東西さまざまな道具があります。ドライバーはネジを締めるのに使われるし、カンナは木を削るのに使われる。それぞれの使用目的に適した道具が何百とあって、生活の役に立っているのです。

 NHKの番組だったかと思うのですけれど、日本の料理道具を海外に持って行きそれがどんな目的に使われるか当てる、という興味深いもの。
 わさびのおろし金。日本人なら当然わさびをおろすときに使う、という事を経験から知っていますよね。ですけれど、海外ではわさびをおろすという行為自体がないわけですから珍解答続出。どこの国の人だったかは忘れましたけれど、かかとを指さして角質取りだと言ったのには驚かされました。まぁ、確かに角質取りにも使えますけれど。でも、日本人の感覚にはないですよね。
 どこの国だったかまたしても忘れてしまったのですけれど、ホットチョコレートの泡立てる競争というのをしていました。チョコ専用の泡立て器、ケーキなどに使う泡立て器、それに日本の茶筅(ちゃせん)。どれでも早く泡立てられそうな気がするのですけれど、チョコ専用の泡立て器に分がありました。やはり特定の目的に特化した物は強い。

 ところで今日は日曜日。休みの日にはフィットネスに行き、一週間分の疲れを落とし、また一週間乗り切れるだけの鋭気を蓄える。これが僕の正しい休日の過ごし方。
 フィットネスに行く前には準備、つまりはウェア、タオル、靴、飲み物などをバッグに詰めます。もちろんスカッシュ専用の、僕の手に馴染んだラケットだってありますよ。

 数時間の運動の後、シャワーを浴び、サウナに入り、体の疲れを取る。至福の一時。風呂場から出て、水に濡れた髪を乾かしに行くため服に着替えてから、バッグから携帯用の折り畳み式ブラシを取り出す。男だって身だしなみぐらい気をつけねばなりません。服装には無頓着とはいえ、さすがにぼさぼさ頭で外に出る勇気はないですからね。
 洗面台のある場所に行き、ドライヤーの電源を入れ、折り畳みブラシを開いて髪に手を入れる。濡れた髪がブラシに絡まり、毛を真っ直ぐにしていく。いや、していくはずでした。

 手に握られていたはずの折り畳みブラシはブラシではなく、折り畳みの携帯電話だったのです。あぁ、大きさは確かに似ているかもしれないけれど、持った感触だって全然違うのに。

 古今東西さまざまな道具があります。ドライバーはネジを締めるのに使われるし、カンナは木を削るのに使われる。それぞれの使用目的に適した道具が何百とあって、生活の役に立っているのです。
 ブラシは髪を梳かすのに使われ、携帯電話は通話やメールに使われる。わかりきったことですけれど、携帯電話はブラシではありません。使用目的に適さないと、全く生活の役に立たない。ということを思い知らされた日曜の午後。

合羽橋道具街

 東京浅草は合羽橋。ここは食品道具問屋が軒を連ねる町で、珍しい道具やプロ用道具が取り扱われている。かっぱ橋道具祭りというのが十月にあり、普段問屋業しかしていない小口の商いをしていない店も、素人さんを相手にしてくれる。一度行けばデパートなんかじゃ高くて食器など買えなくなるぞ。

02.09.23(Mon) ネズミに感謝せよ
 ねぇ、見てごらん。こんなところにミミズがいるよ。ミミズはね、自然の鍬(くわ)って呼ばれることもある。暗い土の中でむずむず掘り進み、土地を耕し豊かにしてくれるんだ。だから、ミミズを見ても嫌がっちゃいけないんだよ、むしろ感謝するぐらいじゃないとね。

 ミミズを見るとやっぱりいい気はしないですよね。いかに自然の鍬だなんだ言われても、生理的な嫌悪感は隠せないのでして。庭の小さなハーブ園にもたくさんのミミズがいて、手入れをするため土いじりをするたびに見つけてしまい、どうしても気持ちが悪くなるのです。
 魚釣りをするときの餌にミミズを使ったりしていたので、子どもの頃には全く抵抗がなかったのに大人になってから触れなくなるなんて。いや、全く触れないわけじゃないですよ。もちろん捕まえようと思えば捕まえられるし、魚釣りの餌にしようと思えば出来ますから。ただ、差し迫った必要性がなければ、誰だって無理して触ろうとは思わないでしょう。

 日常生活においてミミズを触る機会などそう滅多にあるものじゃない。とは思うのですけれど、今日は触ってしまいました。例に漏れず、精神的な苦痛を伴って。いや、それだけじゃありません。肉体的苦痛を伴う場合だってあるんですよ、例えば今日みたいに。

 三連休スカッシュを毎日やり続けてやろう、という計画をしていたのですけれど、それを達成すべく今日も午前中フィットネス行きました。久しく忘れていた感覚というのを連休最後に取り戻し、半年ぶりぐらいに好調だったのです。球への反応は早く、フォームも綺麗、フットワークだって華麗。そりゃもう面白くて。
 ですから相当調子に乗っていたんだと思います。ボールを取ろうと相手に近寄りすぎて、ラケットスウィングの範囲に入ってしまい、腕にラケットがぶつかってしまいました。かなり本気のスウィングでしたから痛いの何の。
 気づけば腕にはラケットの赤い線。そうです、およそ十センチもあろうかというミミズ腫れ。

 ねぇ、見てごらん。こんなところにミミズがいるよ。ミミズはね、自然の鍬(くわ)って呼ばれることもある。だから、ミミズを見ても嫌がっちゃいけないんだよ、むしろ感謝するぐらいじゃないとね。
 腕に出来たミミズ腫れ、いい気はしない。するわけがない。いかに自然の鍬と言われようが、土の中にいようがいまいがミミズはミミズ。どうしても嫌悪は隠せません。

これがミミズの働きだ

NHKインターネットスクール、たった一つの地球より

 ミミズはすごい、ミミズは偉い。確かに知っている。生ゴミを分解してくれることだって、それを利用したゴミ処理方法だって素晴らしいと思う。だけれど僕はミミズを見たくない

02.09.24(Tue) 見返り美人
 その人はいつも僕を見ていたような気がする。だけれど、特に目立つということではない彼女に、特に僕の関心は向かなかった。たまに、もっと綺麗に着飾って化粧の一つでもしたらかわいく見えるのに、とは思ったけれど。あぁ、あの人がいるな、という程度の存在に過ぎなかったのです。

 蚊に刺されることも少なくなり、とんぼがちらほらと目に付く頃。僕は一人の女性と町ですれ違います。秋らしいオレンジ色の服を着た、どこか古風な感じのする人。
 すれ違ったとき風に乗って鼻をくすぐる、どこか覚えのある良い香り。どこかでこの香りを嗅いだことがある、それも一度じゃない。その香りはその人から出ている芳しい香りでした。

 記憶を辿ると、毎年その香りを嗅いでいるような気がします。ちょうどこの時期のこと。僕は香りに拐(かどわ)かされ、彼女に声をかけてみたい気分。ですけれど小心者の僕ですから、そんな事は出来ません。せめて一目、前からもう一度顔を見てやろう、という気になり足をその人の方へ向け、何食わぬ顔で見たのです。
 するとどうでしょう。知らないはずの人は、全く目立たない彼女ではないですか。いつも目立たぬあの人も、服装と化粧一つで見違えるほど美しくなり、さらに香りで僕を惹きつけるなんて。秋に咲いた花のような人よ。

 彼女が変身した日から数日が経ちました。今では彼女とすれ違うのを一人楽しみにしているけれど、そんな幸せな日も長くは続かないでしょう。思い返せば去年も一昨年も、毎年彼女はこの時期だけ着飾り香水をつけますけれど、人は格好じゃないのよとばかりに普段の目立たない地味な服装に戻り、香水をつけるのを止めてしまう。ほら今だって、だんだん地味な格好に戻りつつあるし。だから時間が経つと消えてしまう香水のように、僕は彼女の存在など忘れてしまうに違いありません、過去そうであったように。

 その人はいつも僕を見ていたような気がする。だけれど、特に目立つということではない彼女に、特に僕の関心は向かなかった。しかし秋のひととき綺麗に着飾り芳しい香りで僕を魅了する。それは金木犀。
 香水をつけた花はもうすぐ散り、僕はやがて金木犀の存在すら忘れてしまうに違いありません、過去そうであったように。来年もまた会いましょう、秋に咲いた花、金木犀よ。

サワデー

小林製薬、製品情報より

 芳香剤と言えば金木犀というのが僕の頭の中では出来上がっているのだけれど、そんなに金木犀の香りを置いている人って最近見かけない気がする。きっとトイレ=金木犀という安易なイメージがいやなのだろう。金木犀だって感情があったら嫌に違いない。

02.09.25(Wed) 実験大好き
 じっけんジッケン実験くーん。昨日も実験、今日も実験、もちろん明日も実験さー。楽しい実験、愉快な実験。明日はきっと大はつめーい。

 実験君は実験大好き、暇さえあれば実験しています。長い間実験しないと禁断症状すら出ちゃいます。それほど大好き実験マニア。明日のエジソン、未来のアインシュタイン夢見て実験に励むのです。

 そんな実験君にもライバルがいます、テスター君です。やっぱり実験マニアでいつも悪さをしてばかり。いつでも実験君に追いつき追い越せ、知識を総動員して挑みます。
 実験君、そんなライバルが許せなーい。相手の出方をうかがって、すぐに茶々を入れるのです。

「うわ、何するんだ。馬鹿、やめろってば」
 今日も一生懸命なテスター君、だけれどまたしても実験君が妨害しようとしています。

「やーい、バーカバーカ。悔しかったらやってみなー。お尻ぺんぺんだ、へへーん」
 よせばいいのに実験君は執拗に挑発します。あーぁ、もう何やってんだか、いい年して。そうやって挑発ばっかりしていると、いまにテスター君キレちゃうよ。

「もうゆるせん。いつもいつも邪魔ばっかしやがって。頭来たぞ、チキショー!こうなったら腕力に訴えちゃる」
 ほらキレちゃった。

「あっはっは。やれるもんならやって見ろ。ほら、かかってこいよ。バーカバーカ」
 だけれどさすがは実験君、腕力もつよーい。相当に喧嘩慣れしてますぜ。一時ちょっと劣性だったけれど、あっという間にやりこめちゃう。

「くそー、今日はこの辺にしといてやる。覚えていろよー」
 ますます頭に来たテスター君、だけれど状況をきちんと把握します。ぐぎぎと歯を食いしばり、ぐっと怒りと屈辱ををこらえてる。今に見ていろ実験君、きっと一泡ふかしてやるからな。

「あっはっはー。正義は必ず勝ーつ」

 じっけんジッケン実験くーん。昨日も実験、今日も実験、もちろん明日も実験さー。楽しい実験、愉快な実験。明日はきっと大はつめーい。

 実験君は実験大好き、暇さえあれば実験しています。長い時間実験しないと禁断症状すら出ちゃいます。それほど大好き実験マニア。明日のエジソン、未来のアインシュタイン夢見て実験に励むのです。

 そんな実験君とテスター君の実験内容は、火薬をいっぱい使った火遊び。あーあ、もう危ないなぁ、火事になったらどうするの。二人ともいい加減にしなさい!

臨界前核実験

毎日新聞、国際面記事より

 アメリカという国は自分のところじゃ核実験ばんばんするくせに、イラクや北朝鮮の核開発に難癖つける。そりゃいくら何でも矛盾してないか?小学生だってわかりそうなものだけれどねぇ。中東諸国や北朝鮮が怒るのもわかるよ

02.09.26(Thu) 涙の理由
「ねぇ、泣いてるの?」

 僕は泣きたい気持ちをぐっとこらえていました。あぁ、女の子っていうのはどうしてこうも鋭いんだろうな。確かに僕は泣いていました。こらえても涙が自然と目に溜まり、油断するとこぼれ落ちそうでいけません。

「泣いてなんかいないよ。馬鹿なこと言うなよ」

 なんて言ったものの、鏡をみれば目は真っ赤になっていることでしょう。でも仕方がありません、泣くなと言われてもこの状況では。彼女は盛んに僕の顔を覗き込み、泣いている様子を見せまいと僕はぷいと顔を背ける。
 大の男がこんな公衆の面前で大粒の涙を目に浮かべる、なんて恥ずかしいじゃないですか。たとえそれが事実だとしても、ぐっとこらえなければ。

 目の前にすっと出されるハンカチ。彼女はすまないなというような顔で僕を見て渡してくれたのです。

「泣くつもりなんかなかったのにゴメン」

 それからはこらえ切れず、次々と目から涙があふれ出て、しばらく何も言えなくなり、僕らの会話は止まったのでした。止まらざるを得なかったともいえますけれど。

 お互い手を伸ばせば顔に触れられるぐらいの、小さなこぢんまりとした店で、一緒に食事をしていました。
 何かが始まりそうな気もするし、また、何かが終わりそうな予感もある。会話はどう転ぶか、どういう方向で持っていったらよいのか、予断を許さないような状況。あぁ、僕は緊張している、明らかに緊張している。それはまるでロダンの考える人のようになれと自己暗示がかかっているかのよう。気を紛らわせるために何杯目かのワインをグラスに注ぎ、酒が弱いくせにぐっと飲み干す。そうすることによって、少しは緊張が解けるような気がして。

 しゃべりすぎてお腹が空いたから、というので彼女に注文を任せました。料理が運ばれてくるまで、酒が入っていたせいでしょうか、それとも緊張の裏返しでしょうか、僕は饒舌に話し、彼女もお腹を抱えて笑っていました。どんな話をしたのか良く覚えていなかったのですけれど、とても楽しい一時だったのです。

 数分の後テーブルに料理が運ばれ、僕は紳士を装い、二人の皿に料理を取り分ける。ちょっとおぼつかない酒に酔った手で。すると、皿から少しだけ料理がこぼれてしまったのです。まぁ、大したものではなかったので、手で掴み、食べ終わったお通しの皿に置きました。
 酔っていますから、ちょっと汗をかきました。目に手をやり汗を拭う。するとどうでしょう。先ほど置いた赤い実、ありのままの姿の唐辛子がそこに。
 取り分けた料理はペペロンチーノ、そこからこぼれた唐辛子。手で掴むと辛み成分は指先に十分移り、僕の目を刺激する。

 イタ、イタタタ。目から涙がこぼれそうになるのです。

「ねぇ、泣いてるの?」

 うぅ、なんという恥ずかしさ。彼女の問いかけに、僕は返答に窮します。だって目に獅子唐が入ったなんて、馬鹿っぽいじゃないですか。

「泣いてなんかいないよ。馬鹿なこと言うなよ」

 彼女は盛んに僕の顔を覗き込みます。え、バレてる?ひょっとしてバレバレ?

「泣くつもりなんかなかったのにゴメン」

 それからはこらえ切れず、次々と目から涙があふれ出て、しばらく何も言えなくなり、僕らの会話は止まったのでした。止まらざるを得なかったともいえますけれど。

 彼女は爆笑です。会話どころじゃない。僕だって目が痛くて必死ですから。彼女から渡されたハンカチで目を押さえる僕。
 ハンカチの隙間から見た彼女は、笑いすぎてすまなさそうな顔をしていました。そ、そんな。お願いだから、そんなお笑い芸人を見るような目で僕を見ないでくれー。

ペペロンチーノ

男は黙ってパスタを食うより

 ペペロンチーノは好きだけれど、獅子唐は料理後に抜いて欲しい。誤って口に入れると危険だし、目に入るのはもっと危険。たっぷり十五分は回復できないと、身をもって知りました。

02.09.27(Fri) 悔い改めよ
 右を見れば針に体を貫かれる人々、左を見れば赤い血だまりに溺れもがき苦しむ人々。餓鬼道、畜生道、阿修羅道、人道、天道。罪を犯した罪人どもが閻魔大王の裁きによって各々に適した場所に送られる。

 審判の時は来た、僕は閻魔様の前に引きずり出される。

「罪人よ。何か言うことはあるか」

「いえ、何の申し開きもございません。ただ己の所行を恥じるばかり。どんな地獄に落とされようと、仕方ありませぬ」

「見上げた心がけ。ならばこの地獄に堕ち、罪を悔い改めよ。それが汝への罰だ」

 そう言い渡されると僕は審判の間から連れ出され、ある地獄の前に来た。

「見よ、これがお前のために特別に誂(あつら)えた地獄だ。ここで反省するがいい」
 鬼はこう言い放ち、僕をその地獄に突き落とした。

 突き落とされたるは薄汚れた水池に見えた。見えたというのは、そこには水ではなく、別のものが張られていたのだから。触れればたちまち何でも溶けてしまう酸、既に溶かされた何かと一緒に池に酸が溜められていたのである。

 僕の体は酸の池に触れると、急激に溶かされる。肉体ばかりではなく心まで溶かされるような、強烈な酸。肉は溶け、骨も溶け、失神しかけたその時、鬼によって酸池から引き上げられる。するとどうだろう、骨肉ともに失われていた体がまた分子原子からよみがえるではないか。

「驚いたか、そうであろう。だがな、これからが驚くところだ」

 その声を聞いたか聞かないか、そういう短い時間で再び酸池に突き落とされる。

「あぁ、なんと無体な。もう罪は二度と犯しませぬ、どうかご慈悲を」

「ならん。そこでお前がした行いをよく考えるんだな」

 何度も溶けてはよみがえり、その度に鬼に突き落とされる。どのぐらい繰り返されたかわからない。肉体そのものは回復する。しかし意識だけははっきりしていたので、精神的な苦しみは蓄積されていく。
 精神力だけが僕を支えていた。だけれどその精神力さえも溶かされようとしてる。畜生、何ていう地獄だ。声にはならないうめき声が聞こえたのであろうか、鬼らしいしかめ面でこう言う。

「どうだ、驚いたであろう。この地獄はな、酔いどれ地獄だよ。お前の胃の悲鳴がわかるだろう。これに懲りて二度と同じ過ちを繰り返さぬことだな」

 こうして僕は全てを悟ったのである。うなだれた僕を鬼は引きずり、もう一度閻魔様のもとへ赴く。

 閻魔様は諭すように尋ねる。

「罪人よ。何か言うことはあるか」

「ただ己の所行を恥じるばかり。もう二度と致しませぬ」

「見上げた心がけ。犯した罪が何であったか良くわかったであろう。これに懲りて、あのような暴飲暴食はせぬ事だ。食い改めよ」


 こうして僕は閻魔大王に許され、日記を書くことが出来るようになったのでした。大変な二日酔、もう二度と許容量を超えて酒は飲みません。

The Jesus Homepage

 英語。僕は無信心者だけれど、こういう神なら祈りたい。Ohジーザス、二日酔いにはほとほと参りました。悔い改めます、食い改めます。

02.09.28(Sat) 絞り取れ
 海綿を骨格だけとしたもの。多孔性で吸水性に富む。国語辞典で調べたあるものに関するものなのですけれど、何だかわかりますか。言われればなるほどと思うんですけれど、ちょっとわかりにくいですね。海綿って何さ一体。
 一般的に思い浮かべるのは上のものを模して作られたゴム、合成樹脂製品。家庭で使われる台所用品と言えば、おわかりかもしれません。正解はスポンジなんですね。

 僕の思い描く良いスポンジというのは、水をたくさん吸収し、汚れをきちんと落とし、水を一滴残さず絞り取れるもの。皿を洗うのにも良いですし、車を洗うのだって適しています。スポンジのことを真剣に考えることなどないとは思いますけれど、無いと不便極まりない。

 では逆に悪いスポンジとは何か。もちろん水をあまり吸い取らず、汚れが落とせず、水が絞れないものなんですね。皿を洗えば傷が付き、車を洗えば傷が付きでは困ってしまいます。今どき百円ショップにだってそんな粗悪品は売っていないと思いますけれど。
 ここ数年騒がれている狂牛病、これも悪いスポンジです。牛の脳味噌がスポンジ状になってしまい、人間が食べると感染してしまうという恐ろしいもの。いくら僕が肉嫌いだと言っても、何らかの形で牛を食べているはずで、おちおちカップラーメンすら食べられない。だってあの肉、何だか牛骨粉みたいじゃないですか。考え始めるともう止まらない。

 僕は今日フィットネスに行き、五時間ほど運動してきました。走り、スカッシュをする。体を動かし有酸素運動なぞをすれば、そりゃ喉は乾くし汗も出る。大ざっぱに計算すると、二リットルぐらいの水分を補給している計算。運動し代謝が良くなると汗の出も良くなり、毛穴という毛穴から汗が噴き出していることでしょう。
 運動を終え風呂に入り、サウナに入り、風呂場から出て体重計に乗るとアラ不思議。飲んだ水と出た汗の量が同じだったらしく、全く変わらない体重でした。

 僕の思い描く良いスポンジというのは、水をたくさん吸収し、汚れをきちんと落とし、水を一滴残さず絞り取れるもの。

 風呂上がりにお茶を飲みながら思いました、きっと僕は良いスポンジに違いありません。

シフォンケーキ

ベターホーム、料理のツボより

 スポンジケーキはヴァリエーションが多い。シフォンケーキもそのうちの一つ。誰かケーキ焼いてくれないかなぁ。

02.09.29(Sun) やわらかな双碗
 いつの頃からでしょうか、あのやわらかな双碗に思いを寄せていたのは。僕は塾に通い、剣道で心身を鍛え、趣味として野球をする健全なる少年でした。厳格な家庭に育ち、同年代の子が好きなテレビを殆ど見せてもらえず、娯楽といえば本という生活で精神が抑圧されていたのかもしれません。そちらの方面への好奇心は並々ならぬもの。水道からちょろちょろと水がこぼれいつしかコップに水が貯まるように、そのやわらかな双碗に僕は一日一日惹かれていきました。偏執狂とも呼べるような好奇心。だけれど小学生に叶うはずもなく、いつも眺めるに止まっていました。幼少の砌(みぎり)に培われた執着心は、今なお揺るぎなく、何時如何なる時でも執拗に追い求めているのです。

 耳にはかすかに音楽が聞こえます。あれはモーツァルト、宮廷にその名を知られた稀代の女たらし、六歳にして身分のあまりに異なるアントワネットに求婚するほどの男。彼も双碗が好きだったに違いありません。滞りなく流れる流麗な調べは、これから行われる情事を見透かされているのではないか、そんな事を考えさせるのです。
 目の前にはやわらかな双碗がカップに包まれている。何カップなのでしょう、小ぶりな手に収まるぐらいのちょうどよい大きさ。僕はそれをどうにかしたくて仕方がありません。どのような形をしているのか、どのような具合に揺れるのか、さわり具合はどうなのか。頭の中にはこうであって欲しいイメージがこびりつき、うずうずして、どうしようか思案しているところ。

「触ってもいいのよ。これを取ればあなたの好きなものがすぐにでも手にはいるのよ。ほら、焦らないで」

 そんなに触ってほしいのかい。そんなに挑発してもいいのかい。一度火が付いたら自制はきかないよ、僕は子どもの頃から抑圧されていたのだから。
 入れものを取りさえすれば、望み通り、思う様あの感触を楽しめるかと思うと、興奮はだんだんと抑えきれなくなってくるのです。

 剥ぐようにカップを取り去ると、なめらかな瑞々しい肌が見えるではありませんか。手で握りしめたい、指で揉みしだきたい。そういう僕の気持ちを知ってか知らずか、双碗は訴えてきます。

「ここを見て。すごく堅く尖っているでしょ。ねぇ、ここよ。ここを指で、あなたの指でぎゅっとして」

 そうか、僕のしたいことわかっているんだね。ちょっとサディズムが顔をだし、不器用に、荒々しく、堅い突起を弾く。するとどうでしょう、あの柔らかな双碗がぷるんと震え、全体がよく見えるようになったではないですか。
 ずいぶんきれいな形をしているね。ぎゅうぎゅうに詰められていた、こわれそうな双碗なのに、全く崩れずこんもりと山になっている姿。脂肪分が多いだろうに、どうしてその美しい姿をとどめていられるのか。

「どう、きれいでしょ。もう我慢できないの。舐めてもいいのよ。舌で転がしてもいいのよ」

 あぁ、こんなきれいなものを、僕は。大事に、丁寧に扱うからね。大人になってから何度も見てきたけれど、やっぱりこの瞬間はたまらない。乱暴に触ると壊れてしまいそうなんだよね。だから僕はそっと色の付いた部分に手を伸ばし、ゆっくりと口に含み、舌で転がすのです。
 乳の味がするようでした。甘い、とても甘い味。その舌触りを楽しみ、長い時間かけ吸いつき、時には歯で甘噛みしました。

「右の方ばっかりじゃいや。左もあるんだから。どう、素敵でしょ。ねぇ、お願い」

 双碗ですからね、僕は欲張りです。左も右と同じように、楽しみました。

 ふと顔を上げると、大事な、僕の双碗があった入れものが見えました。あれほど楽しんだのに何だか物足りない気がして、物悲しい気分になるのです。

 偏執狂とも呼べるような好奇心。今では僕はすっかり大人になり、自由に、欲望の赴くまま双碗と戯れる。幼少の砌(みぎり)に培われた執着心は、今なお揺るぎなく、何時如何なる時でも執拗に追い求めているのです。

 あの双碗のような、甘くやわらかなプリンは今や僕の胃袋の中。二個も食べるなんてちょっと欲張りだったかな。
 とっても素敵だったよ、またいつか僕を楽しませてくれるかい?

ヴィーナスの乳首

東京新聞ショッパー、街角ウォッチ、都心デパートニュースより

 モーツァルトは今からおよそ二百五十年前に生まれたのだから、その当時から男の考えることっていうのは変わらない。モーツァルトはこんな事を考えながら曲を作っていたのだろうか、サリエリが口惜しがるはずだ。

東京プリン

 嘘か誠か、どらエモンの曲を東京プリンが歌うそうな。抗議殺到するだろうなぁ、プリン好きの僕は応援するけれど。でもプリン違いか。

02.09.30(Mon) ホラー映画はお好きですか
 ホラー映画はお好きですか?僕はまぁ、テレビで放送され、且つ気が向けば見る、という感じであまり好きだとは言えないのですけれど、好きな人も多いのではないでしょうか。一口にホラーと言ってもいろいろあります。サスペンス風、サイコ、グロテスクなもの、スプラッター系など細分化されています。だからホラーが好きだ、という人でも内容を良く聞いてみないとわからない事が多い。

 僕はといえば、スプラッター系はちょっと遠慮したい。あんなグロテスクなものを見ようだなんて。吐き気すらします。死霊のはらわたなんていうのが、代表作じゃないでしょうか。
 ペットセメタリーのような話は好きかもしれません。変になって帰ってくる動物、人間。死からの再生というのはキリスト復活に見られるテーマなんですけれど、これを逆手に取った映画ではないでしょうか。キリスト教を信仰する人にとっては冒涜もいいところでしょうけれど。
 古典的なテーマが使われているもの。フランケンシュタインや吸血鬼、狼男などがこれに該当します。これは味付けをどうするかによって、映画の面白みが全く違うものになるでしょう。使い古されたテーマだけに作る側は難しいのでは。

 悪夢でうなされて夜起き、テレビをつけたらキューブというホラー映画、偶然とは恐ろしい。という話をしたら、ホラー映画に流れが移っていったんです。どんなホラーがお勧めなのか、どんなホラーが好きなのかなんていう風に。みんなで、どんなものが好きなのか言い合ったのですよ。
 フランケンシュタイン、フランケンシュタインの花嫁なんか、ホラーは苦手と言いつつ好きなんです、と僕が言う。すると、じゃあ俺はバタリアン。いやまてそれはホラーじゃないよ、なんていう感じで各々のホラー遍歴を披露。みなさんいろいろ見ているらしく、サスペリア、ゾンビ、遊星からの物体X、サイコだなんだ、まぁ出てくるわ出てくるわ。

「私、腐乱がいい」

 え、何?今なんて言ったの?唐突すぎてわからなかった、ゴメン。

「だから、私、腐乱死体」

 この言葉は愛くるしい女の子から発せられました。ホラーのホの字も知らないようなその子からの言葉に我が耳を疑う。それはそうです、よりによって腐乱死体ですよ。スプラッタやサイコなんて甘ったるいものじゃなく、いきなりコアな世界になってしまいました。
 皮膚はただれ、臓器は丸見え、場合によっては骨まで露出しちゃうような腐った死体。それを女の子が好きだなんて。ネクロフィリアだなんて。そんなカミングアウトしちゃうなんて。うそでしょ、信じられないよ。本当に腐乱死体がいいの?

「え、何か日本語変ですよ、何言っているんですか?」

 本当に腐乱死体がいいの。これのどこが変な日本語なんでしょう。ネクロフィリアちゃん、大丈夫?

「何言っているんですか。怒りますよ、私が死体愛好家だなんて!」

 え、違うの?だってさっき腐乱死体がいいって言っていたじゃない。

「違いますよー。腐乱死体がいいじゃなくて、フランがいいって言っただけですってば」

 一口にホラーと言ってもいろいろあります。サスペンス風、サイコ、グロテスクなもの、スプラッター系など細分化されています。だからホラーが好きだ、という人でも内容を良く聞いてみないとわからない事が多い。

 この子はホラーの話をしていたのではなく、お菓子のフランがいい、フランが食べたいを略してフランしたい、って言っていただけなのね。ちょうどお昼の事でした。ホラーに限らずどんな些細なことでも、内容を良く聞いてみないとわからない事って多いのです。

HORROR MOVIE ONLINE

@niftyより

 これホラーじゃないだろっていうのも含まれているのはご愛敬。上にも書きましたけれど、人によってホラーの基準は違いますから。でも絶叫計画はどちらかと言えばお笑いじゃないのかな。

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