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02.11.01(Fri) 十一月の地盤沈下
 軟弱地盤における過剰な水採取によって地面が沈下する現象、地盤沈下。高度経済成長期に多量の水を吸い上げた結果、大都市や工業地帯を中心に地盤沈下が多発しました。この地盤沈下が起こって怖いのは、復元するのが難しく、水害及び震災等の災害を助長することです。

 例えば水害。地盤沈下によって地面と河川の高低差がなくなり、排水が悪くなり浸水被害が起こりやすくなるのです。文章だけでは具体的なイメージがわかりにくいのでリンクを用意しました。

佐賀平野の地盤沈下」 佐賀県環境保全課発行より

 何の考えもなしに調子に乗って水を汲み上げると大変なことになるのがわかりますね。地球のしっぺ返しかもしれません。

 昨晩のこと。ニュース速報でご覧になった方もいるかと思うのですけれど、プロ野球読売巨人軍松井秀喜FA行使して大リーグを目指すという一報が日本全国を駆けめぐる。今年のシーズンが始まる前から注目された大リーグ挑戦、ようやく一段落といったところでしょうか。

 一段落といかないのは日本球界。巨人の、いやプロ野球界の四番たる松井が海外に行ってしまうことで、来シーズン以降ますますつまらなくなってしまったのですから。
 記者会見を見ていて思ったのは、どうやらナベツネあたりが恩を仇で返すのか、などの不穏当な発言をしたのではないかと。それを受けての「裏切り者と思われても仕方がない」という発言だったのでは、と勘ぐられても仕方がありませんよね。

 軟弱地盤における過剰な水採取によって地面が沈下する現象、地盤沈下。この地盤沈下が起こって怖いのは、復元するのが難しく、水害及び震災等の災害を助長することです。

 松井大リーグ行きは地震を起こし、既に地盤沈下している日本球界を浸水させました。これからも第二第三のイチロー、松井を目指すべく、どんどん日本人は海外流失し、日本球界は水の底に落ちていくでしょう。
 何の考えもなしに調子に乗ってきた巨人、いや、日本球界は大変なことになりました。これは松井からの強烈なしっぺ返しなのです。

55ジラ応援団

 あんまり興味はないと言いつつ松井秀喜を日記に書いてしまった。小さいころ野球好きでしたからね、僕にとってサッカーより野球の方が身近なスポーツです。
 それはそうと、松井FA宣言で大リーグ行き表明っていうのはニュース速報で流すべきなのだろうか。イタリア大地震を知らずに松井を知っている人の方が多かったりしてね。

02.11.02(Sat) 酸っぱい口とタコの耳
 同じ話を何度もくり返す人っていますよね。二〜三回は許せるとして、五回十回と同じ内容を聞くと、さすがにもういいよと。口を酸っぱくして言うことによって内容を強調したい、というのもわかります。しかしです、聞く側も馬鹿ではないので、ちょっと同じ内容を話し始めたらもう聞かなくてもわかるよ、なんて悪態をついてしまうのです。

 文章を書いている時にラジオやテレビを流される。これはたまらない。僕の文章の中にちらほらと受け売りの言葉などがさらっと、さも僕自身が考えたようにモニターに打ち出される。
 同じような例として、曲を考えている時に流れる音楽。メロディーというのは他から影響を受け安いのですぐに混ざってしまいます。町中には音楽が垂れ流されているので、曲が頭に浮かんでいる時には用心用心。

 小学校の時に習った九九は反復練習によって脳に記憶される。妹が小さい頃。僕の勉強している、あるいは本を読んでいる時に九九を復唱されるとたまらない鬱陶しさ。妹は忘れていると思うのですけれど、相当鬱陶しくて妹と喧嘩することもありました。
 想像してください。算数ドリルをやっている時に、一一が一、二二が四、なんてやられるのを。頭の中で暗算しているのに、妹の九九と混ざってごちゃごちゃです。

 近所というほど近くはないのですけれど、SHOP99という店によく行きます。ちょっとしたお菓子や飲み物を買うときには、コンビニよりもこのお店、五百円もあればかなりの量を買えますからね。
 良いことずくめのようなSHOP99にも一つだけ難点がある、それは店内に流れている曲。美川憲一がショップのオリジナルソングを歌っているのですけれど、それが耳について離れないのです。

「キュウキュウキュウキュウキュウキュウキュウキュー」

 こんな感じで鬱陶しい。そんなにキュウキュウ言わなくても九十九円で買えるって言うのはわかるってば。
 買い物をしながら、小銭を計算しつつ、頭の中で曲が作らている、という状況においてイライラは倍増するのでした。

 店内音楽を聞く人も馬鹿ではないので、ちょっと同じ内容であったならもう聞かなくてもわかるよ、なんて悪態をついてしまうのです。

 会計を済ませた僕の手にはすっぱムーチョ。口が酸っぱくなる小言みたいな店内音楽を聴いていたからなのかもしれません。

SHOP99

 何だかんだ悪態をつきつつも行ってしまうのは音楽のせいかもしれない。たくさんありすぎる百円ショップの淘汰が始まったようで、地元のちいさな百円ショップはどんどん潰れ、名前の知られた大店舗型が多くなってきた。

02.11.03(Sun) 世界は赤に染まる
 急激に頭に血が上っていくのがわかる。足のつま先の毛細血管からも、手の指先からも、体中ありとあらゆる箇所から頭に血が上っていく。その結果かどうかはとんとわからないけれど、目から捉えられる像は全て赤く染まっているのです。

 たぶん僕は興奮しているのでしょう、そうでなければ説明がつかない。光りがものに当たり、反射した光りの色を目が捉え、ある特定の色として認識する。大丈夫。僕は興奮しているけれど理知的なところも残されているみたい。いいぞ、もう少しだけ冷静になってみよう。
 赤にはエネルギーの発散を促す効果があるそうな。ほら、ホテルなんかで赤い部屋って見たことあるし。若い体は興奮しているから、そんな色がなくても十分なんだけれど。

 いや、そんなことはわかっている、十二分にわかっているんだよ。わかっていても、この赤い像の説明にはならないのだから頭にくる。能書きで事態が解決されるのならば、いくらでも考えつくさ。しかし、その考え出されるどれも明確な解答にはなっていない。海も川も木々も、みーんな赤い。それだけじゃないぞ、電車、車、食べ物、宝石、人間、ありとあらゆる物が赤いなんて。

 でもね、人間って不思議なもの。朱に交われば赤くなるっていうんじゃないんだけれど、僕もこの赤い世界に慣れてきたよ。始めは興奮していたけれど、これが普通なんじゃないのか、なんて思うようになってきたし。実際は普通じゃないんだろうけれど、まぁそんなことはどうでも良いのかもしれない。

 そんなことを考えているときに、僕の前に神が光臨したのです。赤い神々。それまでに想像していた神とは全く違う、人間味あふれる神々。歌い、笑い、踊り、飲み、食べる。人間とまったく一緒の行動をとる神々に僕はすっかり魅了されてしまう。訴えかける彼らの声に僕は時間を忘れ、赤い色彩と一体化する。

 目から捉えられる像は全て赤く染まっていました。借りてきた千と千尋の神隠しはソフトの故障のためか、画面に映し出される像は全て赤みがかっていたのです。
 始めの数十分は怒り心頭でしたけれど、宮崎アニメの妙かすっかり魅了され、あっというまの二時間でした。

赤い「千と千尋」リンク

PERAPE、呼牛呼馬より

 話には聞いていたけれど、借りるまですっかり忘れていた。DVDプレーヤーなんて高級なものは家にないのでPS2で見たのだけれど、金返せと言いたくなるような画像。赤いし、画像が急に暗くなったりするし、かと思うと普通の色に一瞬戻る。その一瞬がとてもきれいで、また頭に来るのだ。これが宮崎アニメ以外だったなら途中で見るの止めただろうなぁ。そのうちテレビでやるのを待とうか。

02.11.04(Mon) 成人たるもの
 二十歳を過ぎた頃からでしょうか、体調に気を使い始めたのは。体育の授業もなくなり運動する機会は減るけれど、逆に大学やら社会に出るとおつき合いでの飲食は多くなる。外食は濃い味付けのものばかりで体に悪いなと思いつつも、交友関係は大切なので食べることに。しかしそれではいけません、確実に体が蝕まれて末は生活習慣病。そうならないとだれも保証してくれません。
 だったら、個々で体調を管理する必要が出てくるのです。食事に気をつけ、運動するのも良いでしょう。成人たるもの健康管理ぐらい出来なくては。

 食生活では減塩をしています。塩の効いた食品は美味しいですけれど、体には良くない。そこで我が家では塩分控えめの塩を使うことに。
 しかしながら塩分控えめ、ここに大きな落とし穴があるのです。塩分控えめの表示があるものだと、ついつい味気がなくて多めに使ってしまう。そうなると分量として塩分控えめでも、普通の塩加減と大差なくなってしまうのです。ですから、ほどほどに使わなければいけません。

 食事ばかりではなく、運動にも気をつかっています。フィットネスに入会し、スカッシュを嗜む。週四日ぐらい出来れば上出来ですけれど、なかなかそうは行きません。フィットネスに行くだけでも時間と手間がかかってしまうのです。
 そういう余裕がないときには、家の周りを三十分から一時間ほど走る。走ると言ってもマラソン選手ではないのでゆっくりとしたペース。大体一時間で九キロぐらい、あまり褒められた速度ではありません。ですけれど、楽しんで走るのでゆっくりでもいいんです。走りながら曲を考え、文を練る。
 ここでもやっぱり落とし穴がありまして、考え事をしながら走っていると気持ちよくなってしまい、定められた時間の倍ぐらい走ってしまうことだって。そうなると疲労の方が強くなってしまい、何のために走ったのかわからなくなってしまうのです。

 実は、たった今走ってきたところなんです。走りながらああでもない、こおでもないと思案しながらだったので、規定の倍以上走りました。一時間半も走れば体調管理のため以上の運動量となり、疲れてしまうのです。
 走りながら額から汗が流れ、タオルをぐっしょりと濡らす。そのうち拭くのも面倒くさくなり、汗が流れるのに任しました。

 走るのも終盤に差し掛かり家に着く直前のことです、垂れてくる汗が口の中に入りました。しょっぱい。

 家に着きストレッチをしているうちに汗が乾いていきます。着ていたトレーナーを見ると、汗が蒸発したところが白くなっている。あぁ、これは人から出た塩、人塩です。あまりの運動量で塩が噴いたのでしょう、またやりすぎてしまったようです。

 走って疲れた体を見て思います、食事と運動の落とし穴。塩分も走るのも、共に控えめが良いみたい。成人たるもの健康管理ぐらい出来なくては。

生活習慣病とライフスタイル

ノバルティスファーマより

 かつて成人病、今は生活習慣病となった。しかし内容は同じ、体調管理には気をつけたいものです。食事や運動はもちろん、タバコ、酒なんかにも関心を持つべき。体調管理に気をつかわないのは、ゆったりとした自殺をしているという考え方もありますからね。

02.11.05(Tue) 屍鬼
 赤く色付く葉っぱたち、風が吹いたらゆらゆら落ちて何れは土に帰る。何かの拍子で僕の意識も飛んで行く、それほど朝から眠いのです。

 気をしっかり保とう、そう思えば思うほど意識はするりと頭から抜け出す。眠気には抗い難い魅力があって、僕の体を支配し、気を抜くと頭を机に擦りつけてしまう。眠い、とにかく眠いのです。

 眠い理由はわかっていて、小野不由美の屍鬼という本を読んだからなのです。誰かが僕に話しかけてきます、眠気を覚ますのには良い。僕はあくびまじりの生返事。

「ずいぶん眠そうですね」

「あぁ。屍鬼という小野不由美の本を夜中読みふけって寝不足なんですよ」

「それだったら私も読みましたよ。吸血鬼の話ですよね」

 ある山村に起こった現代の吸血鬼の話。生あるものの首に噛みつき、血を奪うことで生き長らえる。人が食物で生を繋ぐように、彼ら吸血鬼は人の血で生き繋ぐ。血を吸われたものは死に、村の風習によって土葬される。しかし、血を吸われたものは死ぬことを許されず、やがて甦って屍鬼となり、吸血行為を繰り返す。吸血鬼とはつまり屍から甦った鬼ということなのです。
 その鬼に血を吸われると、初期症状としてとても怠くなる。声をかけられても殆ど反応出来ないぐらいに。ちょうど、今の僕のように。

 あれ?そう言えば口の辺りにちょっとした発疹が出来ている。どういうことだ。眠いし、怠い。そんなまさか、あれは本の中の話だよな。

 彼女を見ると穏やかに笑っています。その笑顔を見ると何故だか背筋が寒くなり、冷や汗が出てくる。僕は彼女を恐れているのか、でも何故。彼女が屍鬼というはずがない。小説は作り物、現実に起こりうるはずがない。いや待て、本の中でも主人公は現実ではないと思いこみ、次々と周りのものが屍鬼になっていった。

 彼女の目から鋭い光が放たれる。空気が冷え切ったように感じ、全身を襲う倦怠感のためか、あるいは蛇に蛙のようになってしまったのか、僕は全く動けなくなってしまう。そのうち、彼女がだんだん僕の方に近寄って来るではないか。
 寄るな、僕のそばに近寄るな。そうしている間にも彼女は近づき、手を伸ばせば顔に触れられるぐらいの位置に立つのです。彼女が微笑むと口から八重歯が覗く。そうか、その鋭い八重歯は僕の喉笛に噛みつき血を吸うためにあるのだろう。彼女の手がすっと僕の喉に向かってくる、首を絞めるつもりか。やれるものならやってみろ、この屍鬼め!

「ちょっと扁桃腺が腫れていますね。眠いんじゃなくて怠いの間違えじゃないですか?」

 喉に手をあて熱を見ながら彼女はつぶやきました。そう言われれば何だか熱くて怠い。そうか、僕は風邪をひいているのか。口に出来た発疹は熱の吹き出し、風邪の兆候。それはあたかも屍鬼にかまれたよう。彼女は風邪薬をくれました。

  赤く色付く葉っぱたち、風が吹いたらゆらゆら落ちて何れは土に帰る。何かの拍子で僕の意識も飛んで行く、それほど朝から眠いのです。

 小野不由美の屍鬼を読み、睡眠不足の今日。風邪で怠くなる症状と眠気を僕は間違えていたようです。紅葉の葉が風で落ちてしまうように、僕も風邪で意識が飛び頭が机に落ちていく。

 本の中では吸血鬼は滅びることなく生き長らえ、風邪もまた地球上から滅びることなく生き長らえるのかもしれないな。彼女の笑顔からこぼれる八重歯を見ながら思いました。

屍鬼

ファンタジア領、Books、長い大量の書より

 小野不由美という人を誤解していた。いや、ファンタジーの十二国記は読んだけれど、それ以上のものを書ける人ではないのかと。しかし、屍鬼のような本を書けるとは、完全に読み違えていたわ。ところで、また風邪引いたよ、八月みたいなことにならなきゃ良いけど。昨日の日記に健康管理を書いておいて風邪引くとは、まぁ得てしてそんなもんだ。

02.11.06(Wed) 人生ゲーム
 盤上のルーレットが回される。カタカタと音を立てて数字が回り、そのうち止まる。四。盤にある車を四つ進め、マス目にある指示を読み上げるのです。

 盤上には様々なことが書かれています。学校、仕事、結婚、その他もろもろ人生の一大事。拒否することは許されず、盤の上にいる限りルールに従わなければいけません。

 僕は盤上のルーレットを回し、車を動かし、ゴールに向かって突き進む。しかし、たまには予期せぬ事故もある。望んだことではないけれど、仕方がないことかもね。マス目の指示は一回休み、僕は風邪引き一回休み。

 周りを見回すと、たくさんの車が盤上に。六十億もの駒が動く大ゲーム。さーて、ルーレットを回しましょう。

 盤上のルーレットが回される。カタカタと音を立てて数字が回り、そのうち止まる。

 六十億もの駒はそれぞれ意志を持ち、己の意志で動いていると思いこんでいるのかも。その実、誰かにルーレットを回されて、勝手に動かされているのかもしれません。

 次の数字はいくつでしょう、マス目の指示は何でしょう。神々は駒を弄ぶ。僕らは見えざる手によって動かされる駒、行き着く先はどこでしょう。

人生ゲーム

タカランドより

 風邪を引いて体が弱ると、どうしても気持ちも弱くなる。風邪なんて僕の意志じゃないのになぁ、何らかの外的要因によって動かされているような気がしてね。こんな風に言うと運命論者みたい。さて、明日のマス目に書かれているのは何でしょう。

02.11.07(Thu) 夕日のような花、鮮血のような花
 赤い花を見てある人は「夕日のような花」と言い、またある人は「鮮血のような赤」と言う。どちらもその通りだと思うし、赤い花があるという事実は間違えないのだから。人によっていくらでも表現方法はあるのでしょう。

 僕の目で見る世界は平凡で奥行きがない、常々そう感じています。これは僕自身が意識してものごとを見ていないから、あるいは無関心だからかもしれません。他の人と比べようがない、というのが正直なところ。
 自分は特別な人間なんだ、とか、天才なんだ、なんて小学校の低学年ぐらいでも今どき思いませんよ。日々凡庸に生きる、これが僕なのです。だから平凡で奥行きがないのも仕方がないのかな、なんて納得してしまうのかもしれません。

 これは内緒なんですけれど、僕は二人の女性と同時につき合っています。許されることではない、そんなことはわかっています。わかっているけれど止められない、それが二股というものじゃないんですか。お互いの友人に話せば非難されるかもしれません。かもしれない、ではなく絶対に非難され罵られるでしょう。僕はそういう男です。
 なぜ二人女性と関係を続けているのか、それは僕の目で見る世界とは異なる世界を見せてくれるから。同じものを見ていても違った角度から見ればどんな世界に見えるのか、僕は不思議でなりません。

 それでは二人のことをお話しましょう。一人目を仮にMさんとしておきましょう。Mさんはとても目立つ人で、どこに行っても人の目を惹きつけずにはいられない。どこか知的な香りのする彼女に惹かれ、僕は彼女を買いました。危険な娼婦、一夜の過ち。いけないことと知りつつも、僕は一夜だけの関係にするつもりはなかったのです。過ちを正解にしたいと請い願う。彼女を買うのは高くつく、だけれど懸命に金をため淫らな関係を今まで続けています。身も心もたぶん彼女に捧げ、寝る間も惜しんで肌に触れ、目を見つめ、欲情する。高いお金を払ったんだ、そのぐらいはしてもかまわないでしょう。

 そうやってずるずると関係を続け、長い年月が過ぎました。その間に僕はWさんに知り合ったのです。Mさんに比べたら平凡すぎるぐらい平凡な人。そんな彼女はいつの間にか僕の身近にいました。ごく気軽に、まるで幼なじみのようにするりと。派手なMさんとは全く違うタイプの女。外見も、性格も違う。強いて同じ点を挙げろと言われれば、僕にとって二人ともかわいい人だということかな。

 二人とつき合っていて面白いのは、見ているものが同じでも感じ方が全く違うということ。それぞれの性格によるのか、あるいは生い立ちがそうさせるのかわかりません。僕はどちらに合わせたらよいのか、というのが一番困ってしまうのです。心情的にはお金をかけ、時間をかけ、愛情を注いだMさんということになるのか。
 いや、そんなことは安易に決められない段階まで、僕と二人との関係は来ているのかもしれないな。

 こういう関係はどうなんでしょう。汚れている?あぁ、そうかもしれませんね。だけれど、騙しているということじゃないですから。どちらも大事な人、僕の前からいなくならないで欲しい。

 出来ることならば僕は二人と同じものを見たい、ずっと同じ夢を見ていたい。それはかなわぬ夢かもしれません。夕日のような花、鮮血のような赤、だけれど赤い花は赤い花に過ぎないと僕は思う。どう言い繕っても変えられぬ事実、いろいろな見方があるものです。

写真の色とモニタの表示について

気分を変えて、より

 WINとMacの色表示は悩む、特にサイト構築なんかしていると悩みまくる。色もそうなんだけれど、CSS使うと画面が全然違うし。そもそもWINとMacで同じものが見られない、というのが間違ってる。これはウェブデザインする方の問題ではなく、OSメーカーの問題じゃないの?
 そうは言っても、サイト作るのなら同じような見栄えにするべく努力しないとなぁ。見てくれる人に申し訳ないし、僕自身も腹立たしいもんね。

02.11.08(Fri) 切り裂きジャック、百年の悲劇
 鋭い刃先が目の前を掠める。刃渡りは十五センチから二十センチ、刃先に光りが反射し目を眩ます。あれに刺されたら痛いだろうな、ぶすりと肌にめり込めば死んでしまうだろう。刃先に恐れをなし僕は目を瞑る、次に目を開けられるのはいつのことだろうか。

 ジャック=ザ・リッパーのあだ名で知られる男。十九世紀末の英国を恐怖のどん底に突き落とす男、切り裂きジャック。夜霧の立ちこめるイーストエンド、辺りはすぐに暗くなり彼の出番がやってくる。男女を問わず暗闇に引きずり込み、喉を裂き、腹を切り、夜霧の中へ消えていく。切り裂きジャックは未だに捕まっておらず、何者が真犯人なのか、その謎は闇へ葬られたまま二十一世紀を迎えてしまったのです。

 僕の目の前に突き出された刃物。これから始まることはわかっている、これで切り刻むのだ。どうしてこんなことになってしまったんだろう。怯えながら今起こっている現実をどこかに放り出したいと思う。しかしそれはかなわない、現に彼が目の前にいて、鼻歌を歌いながら愉快そうに刃物をちらつかせているのだから。
 手には金のブレスレット、首には同じく金のネックレス。髪は金髪で香水の匂いを漂わせ、彼は仕事に取りかかる。つまり、これから刃物を使ってやろうということ。切れ味はわかっている、彼にはそれがどんなに切れるのか確認済み。彼の容姿の異様さにすっかり呑まれてしまい、身動き一つとれないでいるのです。もっとも、動こうものなら鋭い刃物がぶさりと突き刺さるのは明らか。

 百年という時を経て、ジャックが蘇ろうとしているのか。ジャックは僕は祭壇の羊、彼の魔手の生け贄になってしまうのか。僕は切られている、切り刻まれている。時折鋭い痛みが襲い声をあげそうになるのです。香水の匂いは他の臭い、人間の臭いを消すためなのでしょうか、その匂いが鼻につく。怖い。どうなっているのかわからないし、恐怖のあまり目も開けられない。しかし、目を瞑った分だけ他の感覚が研ぎ澄まされ、刃物の風を切る音で、ちりちりと痛む肌で、彼の香水の臭いで、切り刻まれていくのを感じるのです。

 男の声がして僕は目を開ける、すこし遅れて鋭い刃先が目の前を掠める。あれに刺されたら痛いだろうな、ぶすりと肌にめり込めば死んでしまうだろう。再び男の声がして、声のする方へ顔を向けるのです。

「お客さん、終わりましたよ」

 ホストのような出で立ちをした理容師のにこやかな顔が出迎えます、彼はいつもの人ではありませんでした。僕を恐怖のどん底に突き落とした男、今日も人々の髪を無惨に切り刻む。

 百年経った今でも、ジャックはどこかで人を切り刻んでいるのかもしれません。

QB house

 QBhouseではないけれど、千円床屋に行ったのですよ。しかし、こんなに悲惨な髪型にされるとは。ホスト風の男に当たって嫌な予感はしたんだよなぁ。早く髪よ伸びてこい。

切り裂きジャック

Cheeky's Garden 英国等宣言、シネマでUK&Irelandを感じよう、ノン・フィクションより

 切り裂きジャックは映画もたくさんある。世紀末的な世相、猟奇的な事件、不可解な犯人像、絞れない容疑者と、題材が豊富だから当然かもしれないなぁ。でもこんな猟奇事件はお断りしたいなぁ。

02.11.09(Sat) 指は語る
 深い微睡みの中に僕はいました。目を開けるのも億劫で、何も考えず、ただぼんやりと時の流れに身をまかせているのです。

 体が重く泥になったような気もするし、ふわふわと空中に飛んでいけそうだとも思えてくる。二つの重いような、軽いような、よくわからない感覚。経験したことはないけれど、こういうのも悪くはない。肉体という重荷から解放され、意識のみが僕を支配するのです。
 風と水の音、皮膚の感覚、臭い。そういうものがだんだんと意識の外へ押しやられ、その意識すら消えつつある。いつしか僕はうたた寝を始めてしまうのです。

 何分そうしていたでしょうか。体内時計ではほんの十分ぐらいの出来事に感じます。あぁ、しまった。寝るつもりはなかったのに。

 顔に手をやり眠い目を擦り、何気なく指先を見つめる。するとどうでしょう、僕の手には深い皺が刻み込まれているではありませんか。僕の年とは不相応な皺に動揺を抑え切れません。
 十分。十分寝たつもりだった。しかし、この手の皺を見ると、老人の手のようではないですか。長い年月を経たとしか思えない指をじっと見つめ、寝てしまったことを今更ながら後悔するのです。

 深い微睡みの中に僕はいました。目を開けるのも億劫で、何も考えず、ただぼんやりと時の流れに身をまかせているのです。

 疲れて重くなった体に、眠くて飛んでいきそうな意識。僕はどうやら風呂場で寝てしまったよう、指の皺が全てを物語るのです。

スーパー銭湯「やまとの湯」

 自宅から自転車で十分ほどの所にある銭湯。スーパーの冠が示すように、露天風呂まである。平日の昼間に行くと空いていて、つい泳いでしまう。それにしても、風呂の中で寝てしまうなんて、よっぽど疲れていたんだなぁ。

02.11.10(Sun) 扉を開けて
 僕は一人で行動することが多い。一人の方が気楽だし、何より束縛されなくて良い。だから映画を見に行くのも、買い物に行くのも一人。
 しかし、一人でいるのは僕自身を納得させるための、いわば建て前に過ぎないのです。相手といるのが怖い。深い関係を持った後で嫌われるのが怖い。一匹狼を装っているけれども、本当は深い仲になった後で傷つきたくないだけなのかもしれない。

 澄み切った秋の夜空の下、僕は一人になりました。心の安住を求めるために相手に依存していた、といったらおかしな話だけれど、僕は一緒にいることですっかり安心しきっていたのです。一宿一飯の恩義、いや、それ以上長いこと生活を共にしていて隙が出来たのかも。朝起きてから夜寝るまでの長きに渡り一緒に暮らしていると、良い面も、悪い面も見えています。だから拒絶されるとは思ってもみませんでした。
 一人でいると寒さは身に堪え、冷たい風が僕の心を切り刻む。どうやったら許してもらえるか、その問いは自分で見つけなければならないのでしょう。今は駄目です、寒くて手が悴み、体温がだんだんと奪われ、意識が朦朧とし、暖かかった時の記憶が次々と蘇ってくるのです。

 何とかしなくては。このまま一人ぼっちでいるのは哀れだし、また滑稽に思えてくるのです。一人でいるのが好きだなんてうそっぱち、誰だって人は一人では生きていけないのだから。それは僕だって同じことさ、どう表面を繕ってみても心はごまかせない。可笑しくもないのに、くっくっという自嘲気味の笑いがこみ上げてきます。むしろ悲しむべき状況なのに。

 僕はまた一人になってしまった。今まで相手がいて時間を作るのが大変だったのに、今度は時間を潰すのが大変になるとはね。
 漫画喫茶で面白くもない漫画を数冊読み、人気があるらしい映画を見て、数時間を潰しました。その帰り際にコンビニであんまんを買い、人の目を憚ることなく歩きながら食べました。あんまんはとても甘く温かかったけれど、拒絶された寒い心を甘く温めることは出来なかったみたいです。

 どきどきしながらドアノブに手をかけると、何事もなかったかのようにドアは開き、僕は家の中に入りました。家族が出かけるのに鍵を忘れて外出すると、締め出しを食らうこと必至。

 人からでなくとも拒絶されるのは辛く悲しい。リビングで紅茶を飲み体を温めながら、一人物思いに耽る僕なのです。

ハートブレイカー

GAGAより

 結婚詐欺師という単語がふと頭の中を過ぎる。この映画は見なかったけれど見てみたい。だってシガニー=ウィーバーが詐欺師ですよ?エイリアン、蘇って戦いますよ?
 それはともかく、今みたいな寂しい状況だと、ころっと騙される気がするなぁ。むむ、負けてなるものか。

02.11.11(Mon) 指定の形式で書きましょう
「ちょっと君」

 あ、やばい。何か失敗しちゃったかなぁ。一言ありそうな顔してるよ。うわぁ、やだなぁ。

「この書類はどうなっているんだね。ちゃんとしてもらわなくちゃ困るよ、何年やっているんだい」

 それは先日提出した書類。僕は指定された形式通りに出したつもりだったんですけれど、不備があったようなのです。

 指定の形式。学生時代の卒業論文や課題提出にしても、きちんとした形式がありました。その指示通りに書かれていないものは、内容如何に関わらず突き返される。これは常識なのですけれど、万全を期して提出したのに戻されるとがっくりします。
 社会に出てからの提出する文書の多いこと、学生時代の比ではありません。もちろん手抜きせずにやっているつもりですけれど、学生の時と同様に突き返される。とにかく形式というのは重要なのです。

 本当はわかっているんですよ、内容の方がよっぽど重要だってことぐらい。でも、調っていない形式は見るに耐えないですから。ちょっとニュアンスが違うかもしれませんけれど、縦書きの英語、米粒に書かれた文字、黒い紙に書かれた黒い文字。そんなものを見たくはありませんよね。

 僕は突き返された文章の不備を調べ、形式を整え、また提出します。融通の利かない嫌な相手にも納得できるような形で、僕は文章を整える。今度は大丈夫ではないでしょうか。

 拡張子という名の形式は融通が利かなくて困ります。

拡張子辞典

 ネット接続せずにMacを使っていれば、殆ど拡張子を意識することはない。しかし一度ネット接続するならば拡張子を考えなければならない。まぁ、使う形式なんて限られているので、拡張子辞典を引く機会はあまりないのですけれど。ただ、いきなり知らない形式で送られてくると参る。そうならないために、普段から拡張子を付けてファイルを保存し、慣れるようにすれば良いのかも。習慣を変えるのは難しそう。

02.11.12(Tue) 追っ手から逃れろ
 先ほどから気配を感じるのです。五分前に後ろを振り返った時には誰もいなかったはず。暗い夜道といっても僕は男なので襲われる危険はない。ないはずだけれど、この不安は一体どこから来るのでしょう。

 後ろを振り返って何者がついてきているのか確かめたい。確かめずにはいられない。しかし、もし。もし仮に犯罪者であったなら。こんな仮定は意味はないのだけれど、不安なためにどうしても考えてしまうのです。金目のものを盗まれたらどうしよう。いや、金ならまだしも命まで奪われたら。近頃は物騒だし、犯罪件数も増加してきている。だから、いつ被害にあっても不思議じゃない。
 そう考えると背筋が寒くなってくるのです。汗が額から滲み出てくるのが感じられ、鼓動が速く刻まれ、不安を一層掻き立てる。

 善良な一市民をつけ回して何が面白いのか。そこら辺の心理はとんとわからないし、わかりたくもない。待てよ、ただ単に僕が自意識過剰で、後ろから来る人につけられていると思いこんでいるだけではないのかも。
 後ろを振り返るのは怖い、だったら前に進むしかない。前に進めば全てがはっきりするでしょう。僕は速度を上げ、後ろからの気配に全身の神経を傾けるのです。

 足音が聞こえる、先ほどよりもさらに大きく足跡が聞こえます。疑う余地はない、僕はつけられている。何者だろう、なんて考えている余裕はありません。僕は心理的に追いつめられていました。なりふりなど構ってられず、全力で走って逃げることにしたのです。

 はぁはぁ。息も続かないし、胸も苦しい。限界まで足を動かすものの、追っ手の音はずっと聞こえ続けているのです。それどころか、先ほどよりも近くに気配を感じ、手を触れれば届くような位置に来ているのでしょう。もう駄目だ、やられる。何でこんな事になってしまうんだろう、なんて思っていたら、目の前に交番があるではないですか。僕は交番目掛けて走ります。

 もうすこし、あとちょっと。あそこに行けば全て解決するはず。そうやって自分を励ましながら走ります。喉はからからだし、心臓は今にも張り裂け、足は絡まり転びそう。あと二十メートル、十、五メートル。あそこに行けば解放されるかもしれない、この苦しみから逃れられるかもしれない。警察は市民の味方、正義の味方。
 交番の前にやっとの思いで着いた時です、追っ手の気配が消えたのは。警察に駆け込まれるのを恐れてのこと、もしくは、何か僕の想像の及ばない別の事情でしょうか。とにかく追ってからの追究を免れることが出来たのです。

 ずっと気配を感じ続けていました。二十分、いや三十分はあったかもしれません。暗い夜道といっても僕は男なので襲われる危険はない。では何故、僕は追われたのか。

 僕が交番に着くちょっと前、追っ手は手前の路地に曲がって行きました。その人の自宅はそちらにあるのかもしれません。
 暗い夜道、名も知らぬ者に同じペースで延々と併走される不気味さよ。夜のマラソン、どうやら僕はペースメーカーにされたよう。

 目標の交番まで走り終え、近くにある自動販売機で清涼飲料水を買い、喉を潤し、僕は再び走り始めるのです。

バトルランナー

マジソンズ博覧会、最低映画館、底抜けSFより

 走りながらこの映画を思い出した。この映画はB級、下手するとC級なんだけれど、好きなんだよなぁ。あの電飾デブ男なんかたまらなく変だし、そもそもシュワルツェネッガーの全身タイツもモジモジ君みたいで変だし。僕ぁたまらなく好きだよ、馬鹿映画。

02.11.13(Wed) ビビッと一目惚れ
 一つ前の駅から乗ってきた二十代前半ぐらいの女の子。ふわふわのセーターにコールテンのズボンがよく似合い、僕の目は彼女に引き寄せられました。知らない人をじろじろ見るのはさすがに失礼ですので、僕はすぐさま車窓から見える景色に目を移し、そのうちそんな人がいたことすら忘れてしまいます。
 多くの人を乗せた電車、疲れた人で席は全て埋まり、僕は仕方なくつり革を握りしめて立っていました。あぁ、そろそろ降りる駅なのでドアの方に行こう。人にぶつからないように気を付けながら車内を歩きます。

 数人かわした時、先ほど僕が目を奪われた女の子とすれ違う。ほんの少しだけ意識をしたけれど所詮は赤の他人、何が起こるわけでもない、と思っていました。しかし、すれ違う時に僕はビビッときたのです。

 一目惚れって信じますか?僕は有り得ると思います。昔つき合った人にも、僕が一目惚れしてしまった人っていましたから。どこに惚れるか、というのは人それぞれ違っていると思うんです。それは体の部位かもしれないし、性格かもしれません。ですけれど、そんなことはどうだって良いんです。重要なのはどうしようもなく惚れてしまった、というその一点なのですから。
 そんな時には、必ず全身に電気が走ったように衝撃が走り、ビビッと感電したようになるのです。ちょうど今、車内で彼女とすれ違った時のように。

 僕は彼女の目を思わず見つめてしまいました。すると、彼女の方も僕の方を見つめて来るではないですか。驚きました、まさかこんな事になるなんて。
 お互い、何が起こったか一瞬で察知してしまったのです。二人が出会ったのは偶然で、全く予想しえなかったこと。それなのに、どうしようもなくビビッときてしまったのです。あぁ、これは何かの運命なのでしょうか。

 彼女に言葉をかけたかったけれど、電車は目的地に着いてしまう。仕方がなく電車を下り、ズボンから切符を取り出そうとしたときでした。鋭い痛みが手を襲います、ビビっという音を伴って。

 暖かそうなふわふわのセーターを着ていた彼女。すれ違いざまにお互いの服が擦れた時、どうしようもなくビビッときてしまったのです。驚いて顔を見合わせ、静電気ですねと、目と目で言葉を交わす二人でありました。

静電気

発掘!あるある大辞典、第210回より

 どうも帯電体質らしくて、寒くなるとあっちこっちでビビッとくる。静電気防止のブレスレットなどは欠かせない。今日の静電気は大きかったなぁ、あの女の子もきっと帯電体質だったに違いない。

02.11.14(Thu) Agua de beber(おいしい水)
 人間の体の約六割が水。その水はおおよそ一定になるように出来ていて、水を飲み過ぎたとしても、汗や尿として体外に排出されるのです。

 では、どんなときに水を飲むのか。少し例を挙げてみましょう。

 食事の時には水を飲みますよね。これは喉に詰まらないように流し込む役目を持っています。ぱさぱさしたものは喉に詰まりやすく、むせてしまうのを防ぐためにも水は必要です。
 運動をしたとき。汗をかいて喉が渇き、これまた水を飲みます。有酸素運動をすると大量の汗をかくので、水を飲まないと脱水症状を起こす恐れもある。
 そして、辛いものやしょっぱいものを食べたとき。塩分や辛味を水で薄め、普通の状態に喉や舌を直すのです。

 僕が帰宅し家に入るのと同時に、外に放し飼いにしている犬も一緒に家に入ってきます。自分は人間だと思いこんでいるのでしょうか、犬ながら家族の一員という感じ。
 台所で手を洗い、うがいをし、喉の乾きを潤すために水を飲む。ふと犬を見ると、犬も僕を見返し水を飲み始めるのです。今日も、昨日も、一昨日も。いつだって僕が帰宅すると家に一緒に入り、人の顔を見て水を飲むのです。外にも水が用意されているにもかかわらず。

 さて気になっているのは犬がどんなときに水を飲むのかということ。喉が渇いているからか、運動をしたからか。どちらも違うような気がします、だって外でぼけっと日向ぼっこをしているだけですし、飲み水だって用意されているのですからね。

 たぶん愛犬は思っているのでしょう、外から帰ってきた人はしょっぱいと。普通に生活していても人間は多少の汗をかき、その汗には多少の塩分が含まれます。だから僕を見て塩分を中和するために水を飲むのかも。犬の嗅覚は人間の百万倍ですからね。

 犬を見ながらブランデーを飲み、酔っぱらって体が熱くなり、僕は少し汗をかきました。それを見て犬も水を飲んでいます。飲む理由はいろいろですけれど、その水はおおよそ一定になるように出来ていて、飲み過ぎたとしても体外に排出されるのです。

 さぁて、これから愛犬と散歩に行こう。夜も遅いけれど酔い覚ましにはちょうど良い。



犬が好き、勉強部屋、犬の体(各部のつくり)より

 どうも予想よりも酔っぱらってしまったようで、酔い覚ましに散歩はちょうど良かったのです。しかし、人の顔を見て水を飲むって感じ悪い。僕の犬だけだろうか。

02.11.15(Fri) 目の交換
 感覚は麻痺する。いや、摩耗と言った方が良いかもしれません。タイヤが毎日の運転ですり減るように、同じことを無意識のうちに繰り返していると、だんだん感性がすり減っていきます。

 空を見ても空だ、町を見ても町だ、と言う具合に慣れが僕を無感動にさせる。子どもの頃は空の色を楽しみ、雲を眺めて様々な想像をしたのに、そういう思い出すら遠い彼方に行ってしまったのです。

 椅子に座ってぼんやりとしていたら、声が聞こえたような気がしました。遠い異国の言葉。

「俺の目をやろう」

 その声を聞いた瞬間から、僕の見るものが変わりました。今まで同じ物を見ていたはずなのに、違った物に見えるのです。街の風景、人々、形ある物の全て。
 毎日のように見ていた風景が、突如として存在感を誇示し、こちらに何かを訴えかけてくるのです。見て。僕を見て。私を見て。俺を見ろ。言葉は違いますけれど、どれもこれもこちらに見ることを要求してくる。それらに目を向けて、何で今まで気がつかなかったんだろうと考える。

 子どもの頃は空の色を楽しみ、雲を眺めて様々な想像をしたのに。しかし、僕は再び気づくのです。いや、気づかされたのかもしれません。

 普段見逃していたものを、僕は「彼の目」を通して見つめていました。

GAIJINWORLD

 英語。日本に住んでいる外国人から見た日本の日常。他人の日常、というのに興味があります。生活には殆ど変わりはないはずなのに、視点が違うだけでどれほど異なる考えが生まれることでしょう。

02.11.16(Sat) 秘密の修行
 友人の秘密を知ってしまった。たぶん、この事を知っているのは僕だけだと思うし、彼女も誰にも知られてはいないと思っているに違いない。でも、僕は知ってしまった。誰にも知られたくない、いや、知られてはいけない彼女の秘密を。心して聞いてください、実は彼女は忍者の修行をしているのです。僕はそれを目撃してしまったのです。え、みなさんはそんな馬鹿なとお思いになるかもしれませんけれど、うそじゃありません。決定的な証拠があるのです。

 夕方に待ち合わせをしていました。数分遅れで彼女は息を切らしてやって来たのです。走ったために呼吸は荒く、服も乱れていました。十二月下旬の寒さということで防寒対策はばっちり。手には手袋、首はマフラー、足はブーツ。寒い中での待ち合わせではなく、屋内にすれば暖かくて良かったかなぁ。何て思いながら彼女をまじまじと見つめました。たかが数分の遅れで走ってくることはないのに。
 そんなに息を切らして走る理由はないのに何故だろう、僕はいろいろ考えました。数分の遅れぐらいで怒るようなことはないし、また怒られるはずもない。ということは、走るだけの理由があるに違いない。彼女を見て急に気づいたのです、忍者修行をしてきたのだと。待ち合わせの直前まで忍者の修行をして呼吸が荒くなったのだと。

 実際に忍者を見たわけではないのですけれど、彼女を見て納得したことがあるのです。忍者の修行とは何か。忍者ハットリ君を小学生の時に見て、僕も試したことがあるのです。でも、とても僕には出来ないと思い断念しました。

 苗木を植えて、それを飛び越える。だんだんと木は成長していきますから、飛ぶ距離もだんだんと大きくなってくるのです。それをくり返すと、とんでもない高さまで飛べるようになる。
 背中にたすきを結って走る。ここで重要なのは、たすきを地面につけてははいけないということ。速く走らねば地面にたすきがぺたりとついてしまいますから、これは大変な修行になるのです。地面につけることなく走れるようになったなら、さらに長いたすきを背中に結う。これを繰り返すうちに、目にも留まらぬような速さで動けるようになるのです。

 このように厳しい忍者修行をしている彼女を、僕は見てしまいました。しかも町中で、堂々と。それはもう、すごい速さで走っていましたよ。

 息を切らしている彼女を見ると、首からマフラーが垂れて地面にぺたりとくっついていました。走っているときには長いマフラーが風になびいて綺麗だったのに。これが動かぬ証拠とばかりにマフラーを手に取り指摘すると、彼女は照れくさそうに笑っていました。このマフラーはちょっと長すぎるねって。

 彼女の忍者修行はまだまだのようです。

ハットリ堂

 忍者ハットリ君が急に見たくなりました。好きだったのは、とぼけた感じの獅子丸と影千代。ケムマキとハットリ君もそうなんだけれど、仲が悪そうで意外なところで協力したりしてね。
 それはそうと、ロングマフラーってすごい長いのね、地面に擦るほど長いとは予想しなかった。

02.11.17(Sun) 我慢大会
 男達はむっつりと押し黙ったまま五分間そこにいました。額からは汗がしみ出し、体を小さな小川のように這い、雨粒の如く床に落ちるのです。誰も部屋から出ようとはしません、我慢大会の最中なのだから。

 僕は他の男達と同様に部屋に入って、ただひたすら暑さに耐えていました。こんな暑いところにいるのは余程の物好きなのでしょう、夏だってこんなに暑くはない。僕は行ったことがないけれど、この部屋の空気に一番近いのはジャングルかもしれません。
 しかし、ここには蛇もいなければ、獣もいない。そこにいるのは、ただ汗を流し、暑さに耐え、頭を垂れている男達がいるのみ。

 こんなところは御免だ、今すぐにでも出て行ってやろう。誰もがそう思っているはずなのに、誰もここから出ていこうとしないのです。出ていくのは敗者のすること、自ら退席するものはいない。かといって、このまま暑さに耐えきれるとは信じられないのです。誰かでていけ、そうすれば楽になれる。一人でも出ていけばこのくだらないゲームは終わり、大手を振って外に出られ、涼しい風に当たることが出来るのだから。

 たかが十分、されど十分。僕はついに観念したのです。もういい、もうたくさんだ。こんな辛い目に合わなければならない道理はない。敗残者でもいい、暑さに倒れるよりはよっぽどましというもの。

 男達はむっつりと押し黙ったまま、僕を見て、勝ち誇っていたのかもしれません。額からはしみ出した汗を、僕はシャワーで洗い流しました。

 サウナという名の我慢大会は終わり、僕は風呂場から出る。あぁ、気持ちよかった。

サウナ健康ハンドブック

サウナビ関西、TOPICSより

 サウナは十分が限界。だれも部屋から出ないから、僕が一番先に出るものかって頑張ったんだけれどなぁ。サウナから出た後に飲む飲料水、これは美味い。フィットネスのサウナだからビールはないけれど、たぶんビールを飲んだら格別じゃないかな。でも、アルコールを飲んだら酔いが回ってひっくり返っちゃうかも。

02.11.18(Mon) 金庫番の失踪
 今朝、職場で異変に気づく、社の金庫番がいないのです。社長の片腕とも噂される男の失踪にどよめきたつ社内。朝早くから夜遅くまで社の金の流れを一手に引き受けてきた彼。その失踪は社にとって大きな痛手なのです。

 朝に金庫を開け、必要な分取り出し、夜に金庫を締める。ただそれだけのことなのだけれど、何せ扱っているのは社の運転資金。彼がいなければすぐに立ち行かなくなるのは目に見えています。もし彼がノーと言えば、金は一銭たりとも出すことは許されない。
 そんな彼ですから、いなくなれば社内は大騒ぎ。僕もあちらこちらと捜索しなくてはならなかったのです。どこに行ってしまったんだろうなぁ、数日前に一緒に飲みに行ったばかりだっていうのに。

 僕は彼とは仲が良く飲みに行ったりします。さすが社長の片腕、懐にはうなるような金。と思いきや、それほどお金を持っているわけでは。会社の金を懐に入れ、着服してしまうような人物では決してないのです。

「もっと給料があっても良いのにな、自身の財布にもはち切れんばかりの札束があったら良いとは思うよ。まぁ、あっても使い道がわからないけどな」

 そう言いながら勘定を締め、レジで金を払おうとしました。彼の財布はすこし壊れかけていて開けにくそう。

「給料入ったら真っ先にこの財布を買い換えるよ」

 ずいぶんと長い間、財布と格闘していました。そんなことで金庫番が務まるのかなぁ、なんて僕は見ながら思っていたのです。そうしたら今朝、彼は失踪してしまいました。
 僕の心の声が聞こえたということじゃないのだろうけれど、何だか居心地が悪い。だから、彼を懸命に捜しました。あらゆる可能性を考慮し、行きそうなところを全て見てまわる。しかしその甲斐もなく、今日という日が過ぎようとしているのです。

 朝早くから夜遅くまで社の金の流れを一手に引き受けてきた彼。その彼がいなくなり、夜も遅いというのに未だ見つかっていません。

 僕は帰りにコンビニに寄り、レジで財布を取り出します。壊れた財布、取っ手のなくなった財布、どうやってお金を取り出せというのでしょう。金庫番の失踪は大きな痛手なのです。

徹創レザークラフト

 僕の財布は安物だけれど革製なので長持ち。学生時代から使っているから、十年近く使っている計算。もっと使えるはずだけれど、チャックの取っ手が壊れるとはね。チャックの取っ手を変えれば良いのかなぁ、今のままだと財布を開けるのに難儀してしまう。あ、それだと買い物を躊躇するので無駄使いしなくて良いかも。

02.11.19(Tue) 燃える炎で身を焦がす
 燃えさかる炎、それが身を破滅させることになろうとは。僕らは自分たちを過信しすぎていたのかもしれません。その後に起こる惨事を、その時の二人には知る由もないのです。

 だれでも一度は恋に溺れてみたい、燃えさかる炎のような恋をしてみたい、そう思っていることでしょう。しかし現実的に、とろ火でゆっくりと温められた恋の方が成就することを、僕は経験から知っている。
 時々夢に見るのです、燃えるような恋をする姿を。そうやって身を滅ぼし、ずたずたになり、取るもの手につかず、何をやっても冴えない自分の姿を。蝋燭だって太く短い方が良い、大きな明るい光りで周りを包み込むような燃える炎が好きなだから。
 細く長く、いつまでも燻っているようなちゃちな光りは遠慮します。一瞬でも良い、強く光り輝きたい。そう願う一方、平和でおだやかな時間も愛しく思う。相反する二つの狭間で、僕は揺れていたのです。

 これは僕と彼女の問題だから、他人には口を挟まれたくないのです。えぇ、わかっていますとも、周りは僕らを危なっかしく見ていることぐらい。あまりにも急ぎすぎてやしないかって何度も自問自答を重ね、その結論がこれなのだから何も言わないで下さい。僕らは性急に過ぎやしないか、と考えなかった訳じゃないんです。だけれど、これが見出した答え。燻り続ける恋など臆病者のすること、僕たちは暗黙の了解でそういう結論に達していたのです。

 初めのうちは恐る恐るでした。しかし、それも束の間。すぐに強い炎に身を焦がしたのです。その短い時間で、その後の二人の全てが決まることになろうとは。蓋を開けてビックリとはこのことを指すのでしょう。えぇ、我が目を疑いましたとも。

 燃えさかる炎、それが身を破滅させることになろうとは。僕らは自分たちを過信しすぎていました。その惨事が起こってから、ようやく僕らは過ちを犯したことに気づいたのです。やっぱり周りが言うように、あまりにも性急すぎたのでしょう。しかし、それも後の祭りというものです。

 燃えるような恋などしない方が良かった。こうなってしまったら手の施しようがなく、誰にも、どうすることもできないのですから。

 身を焦がしてしまった!

ホットサンドトースター

東芝、家電製品総合カタログ、調理用品、トースターより

 ホットサンド機はどうも失敗する確率が高い。それを朝にするものだから、時間に追われて朝食を食べ損ない、気落ちしたまま外に出ることになる。そうならないために電気式の物を買うかなぁ。ヤフー!オークションで見たところ、千円ぐらいで買えるみたいだし。

02.11.20(Wed) Body Snatcher
 どうにも奇妙でならないのです。朝起きてすぐ、僕が僕でないような感じがしたのです。体も何ともないし意識もはっきりとしているのに、何故だか誰かに体を乗っ取られたような気がしたのです。まだ断言は出来ませんが、僕はあることに思い当たります。

 流星の夜。どんよりとした雲が空を覆い隠し、いつもなら頭上に輝いているであろう星々は姿を見せません。それでも庭の椅子に腰掛け、僕は暖かい格好をして空を見上げていたのです。
 だけれどこの雲。一向に晴れる気配はなく、流星を見るのを諦めようか迷っています。数時間を無為に過ごし、疲労のためか欠伸ばかり出てくる。何の脈絡もなく、僕は急に甘いものが食べたくなります。理由を聞かれても困ります、あぁ、食べたいと急に思いついたのですから。家の中に甘いものがないか確かめに、一時的に家の中に戻ります。
 部屋に入り冷蔵庫を開けた途端、猛烈な眠気が襲ってきます。夜も遅いですから無理もありません、前日も寝不足でした。冷蔵庫には甘いものなどなかったのでドアを閉め、途方に暮れてソファーに座ります。すると僕はすぐにうとうとしてしまい、そのまま眠りについてしまったのです。

 甘いものが食べたい、目覚めるとすぐにその思いに囚われました。日中もずっと、甘いものが欲しくて仕方がなかったのです。それを我慢し、考えまいとすると余計に食べたくなる。何をしてもそちらに考えが向かってしまい、話しかけられても生返事。
 甘いものを。口の中いっぱいに甘味を。まったりとしたあの味を堪能したい。僕はとうとう我慢できなくなり、夜にプリンを一つ買いました。そのためだけに今日という日を過ごした、と言っても過言ではありません。

 どうにも奇妙でならないのです。体も何ともないし意識もはっきりとしているのに、何故だか誰かに体を乗っ取られたような、僕が僕でないような感じが一日中ずっとしていました。プリンを食べながら、僕はあることを確信するのです。

 星々の輝きを厚い雲が遮る流星の夜。僕は甘いものが猛烈に食べたくなり、自分がおじゃるまるであったらどんなに良いだろうかと、さぞまったりとした生活を送れるのではと、そう考えたのです。
 その時。雲の隙間から流れ星がすーっと、夜空を横切ったのかもしれません。流れ星が願いを聞き入れ、僕をおじゃるまるにし、プリンを食べるようにしたのでしょう。

おじゃるーむ

 やんごとなき身分のお子さまおじゃる丸と子鬼たちとの争いは微笑ましい。戦争もあんな感じだったら世の中平和で良いだろうなぁ。武器をえんま大王のシャクに換えて戦えば、まったりとするでしょう。おじゃー!とか言ってさ。

02.11.21(Thu) 黒い草
 彼女は僕の顔をまじまじと見つめています。やましいことなど何もない、堂々としていたいのに、彼女の強い眼差しからつい目を逸らしてしまう。
 警戒感を強め、緊張しないように、決して気取られないように、しかし顔には笑みを浮かべて。どうか作り笑いがばれていませんように、あのことを悟られませんようにと願いながら、逸らしていた目を再び彼女に向けるのです。

「ねぇ、切ったんでしょ。そうなんでしょ?」

 なんでわかったんだろう、目立つことをしたわけではないのに。もしや一族に受け継がれている儀式を知られてしまったのだろうか。

 放っておけば大地に草が生える、それは当たり前のこととして世の人々に受け止められる。何もない更地に緑の草が生えていてもどうってことない。だけれど、もし黒い草が生えていたらどうなるか。狭い場所に少しでも黒い草が生えていたら、そこには何があるのか、何であるのか不思議でならず、好奇の目を向けるに違いありません。

 二十になる頃から、僕は草を切るように定められていました。父も、祖父もそう。聞いたことはないけれど、もっと前の代から受け継がれて来たのかもしれません。二十になると決まって草を刈る、そういう家に生まれてきたのです。いつから土地にその忌まわしい草が生えるようになったかは知らないけれど、僕は二十になった頃から見よう見まねで切り始めたのです。

 この草さえなければ、何度思ったことでしょう。火を放ちそれを焼き尽くす、あるいは除草剤を撒き枯らせることが出来るなら。しかし、そんなことをしたら土地そのものが死んでしまう。それだけは避けなければ。だから仕方なく草を切り取るのです。
 もし草を引き抜いたらどうなるのか。マンドゴラと呼ばれる人型の草よろしく絶叫するらしい。そんな恐ろしいものをどうして引き抜くことが出来ましょう。
 不幸中の幸いと言えるかどうか、草の生育は遅く月に一度か二度切れば良いのがせめてもの救い。父に聞いたことがあるのですけれど、草には個体差があり、生える土地と生えない土があるらしいのです。それに、我が一族の土地は生えにくいとも。同じような運命を持つ一族が他にもいて、もっと短い周期(一日周期!)で草を切らなければならない人もいるそうです。それに比べたら、我が一族の何と幸運なことか。

 今月の草を刈る日、忌まわしい黒い草を土地から葬る日。それが今朝。僕は草を刈るのにへまをし、土地を傷つけてしまった。呪われた草に呪われた土地、その土を傷つけると赤い水がわき出すのです。まぁ、放っておけば水も次第に引いてしまうので問題はないのですけれど、他人に見られたら一大事。ただでさえ目立つのに、好奇の目を向けられるかもしれないのに、その上赤い水だなんて。

 僕は気の緩みからか、赤い水が引くのを見届けず家を出てしまったのです。だから、彼女に見つかったのかもしれない。そう思うと身が凍る。彼女からの視線は直視出来ず、それを気取られないようにと作り笑い。そうして、泳いでいた視線を再び彼女の目に向ける。どうか気づかれませんように。

 しかし、僕の真摯な思いは宙を虚しく彷徨い、彼女には届きません。唇と鼻の間を指差し、笑いながら言うのです。

「ねぇ、髭を切ったんでしょ?血が付いているわよ」

びゅーてぃ博物館

マオマオネットより

 僕の家系は髭が薄く、月に一度か二度切れば十分。毎日のように髭剃る人がいる一方、僕のように体毛の薄い者も。ショーン=コネリーのような髭になるためには、一生かかってしまうかもしれない。いや、一生でも無理か。

02.11.22(Fri) 狸の化かし合い
「よう兄者、今日もいっちょ人間をからかってやろうか」

「弟よ、あの頭悪そうな人間ならちょうど良いだろうさ」

 二匹の狸が悪巧み。いつも一緒に人間をからかい、自慢の変化を楽しみます。そうとも知らずに人間は、二匹にころっと騙される。それを見て益々つけ上がる狸たち。

 いつの頃からか、狸は人間をからかうことを覚えました。始めは変化の術を仲間に見せるだけだったのに、それでは飽きたらず、人間を騙して見つかるか見つからないかそのスリルを味わうのです。
 利口な人間は二匹の変化を見抜き歯牙にもかけない。しかし、騙される人間の顔ったらありません。おかしくておかしくて、変化が解けてしまいそうなぐらいです。それをじっとこらえて、馬鹿な人間が来るのを待ちかまえる二匹。

「ほーら、来た来た。馬鹿そうなつらしているよ、あいつならきっと引っかかるよ兄者」

「よし、いっちょあいつをからかってやるか。よし、同時にやるか弟よ」

「さすがわかってるよ兄者。そうこなくちゃね」

 トロンとした馬鹿そうな顔の人間。髪はぐちゃぐちゃ服もだらしなく、よれよれの上着を羽織ってる。どう考えても頭の悪そうな人間。あれなら絶対気づかれっこない。ほーら、近寄ってきた。こんなに近寄っているのに、まだ気がつかないよ。兄者を間抜けそうな面して眺めたって駄目さ。くー、おかしくって笑いがこぼれそうだ。
 って、ちょっと待て。やばいよ兄者、なんだか人間に持ち上げられているし。うぇ、なんかお腹の辺りを押されてるよ。あれじゃバレちゃうんじゃないの?朝食べたものが口から出ちゃってるよ、うわぁ。それにしても兄者はさすがだなぁ、あんなにされているのに全く動じていないよ。見習わなくっちゃ。

「うげぇ、気持ちわる。間違えて洗顔剤で歯を磨いちゃったよ」

 二匹の狸が悪巧み。いつも一緒に人間をからかい、自慢の変化を楽しみます。そうとも知らずに人間は、二匹にころっと騙される。

 洗顔剤と歯磨き粉に化けた狸たち、今日も馬鹿な人間を化かしてしてやったり。一生懸命うがいをしている僕を見て、二匹の狸は今後益々つけ上がることでしょう。

たぬき

おばけずかんより

 洗顔剤と歯磨き粉、シャンプーとリンス、パスネットとイオカード、これらを間違えるのはみんな狸の化かし合いのせいです。手にする直前までは、確かに洗顔剤を握っていたはずなのに、気がつくと歯磨き粉だったり。みなさん騙されないように気を付けましょう。

02.11.23(Sat) マフィアの抗争
 僕は遠巻きに事態の収拾を見守っているのだけれど、どうにも情報が少なすぎてよくわからない。例のマフィアの抗争についてだ。どこかで聞き及んで知っている人は既知の事実として受け流して欲しいのだけれど、そうでない人も多いであろう。僕も実はよくわかっていない。なので、僕の掴んでいる事実と感想とを、ここに書き認めようとするものである。

 日本で暗躍するマフィアのドン、多くの手下を従え、合法・非合法問わず多く事業を展開する男。彼の名はニッキー。手下の総数は万単位。彼の魅力に取り付かれ、進んで彼の僕になる者も多い。職業や年齢に関係なく、男も女も彼の名の下に、自由に振る舞うことが出来るから、彼の信奉者になるのでは。日々の暮らしの中で、彼の手足となり働き、仕事が正当に報いられる喜び。社会生活の中で自由な発言権を持たない一般的な人だって、働き如何で組織内の重要な位置を締めることが出来る。それがニッキーの魅力、マフィアのドンとしての才能なのであろう。

 何年にも渡り日本を裏から支えてきたニッキーの組織だけれど、外敵の襲来に晒されることもある。仮にMr.Bとでも呼んでおこうか。彼の実体というのを、僕はよく掴んでいない。なんでも、世界的なネットワークを持つ巨大グループで、その組織力を生かして日本に乗り込もうとしているらしい。数こそ少ないのだけれど、確実にニッキーの領土を侵食しているように感じる。それはひっそりと、人目に付かないように、まるで梅雨時にカビが湧いてくるように表れたのです。
 しかし。カビが人から嫌われるように、Mr.Bの出現は日本マフィアに大きな衝撃をもたらし、排除してやろうという気配すら見え隠れする。情報屋から聞いたところによると、現に組織だった抵抗があったそうな。

 僕はどっちの陣営でも別に構わないと思う。要は、組織の中でどんな発言が出来るのか、その一点にのみ興味がある。たぶん、どちらのマフィアでもやっていることは変わらない。スタイルが違うだけだと思う。いや、それすら定かではないか。なにせマフィアのやること、合法・非合法どちらでもアリなのだから。

 短い期間ではあるけれど、僕はニッキーの下で働き、自由な発言が出来たことを幸せに思う。しかし、組織を抜け、Mr.Bの下でやってみようか、なんていう気も少しだけある。これをやってしまったら、今まで築いたものが無駄になりやしないか、なんていう恐れだって。誰でも新しいことに挑戦するときには、恐れと、躊躇があるのだから。
 だけれども、こっそりと二重にやるのも良いかもしれない。あぁ、どちらの陣営にも属し、どちらの陣営にも属さない。こう言うと非難されるかもしれないな。だから、まだ計画段階とだけ言っておこう。

 もし仮にMr.Bの組織に入り地下活動を行うようになったら、僕はそっとみなさんにだけは教えようと思う。あぁ、本当はどちらとも仲良くやっていければ良いどちらとも、やっていることに大差はないのだから協力しあえば良い。しかし、もし裏切れば、マフィアの掟は非情だから血の粛清が待っている。

a.lifeuncommon.org

 英語。フォトブログと呼ばれているものなんだけれど、こういうのを見るとブログは面白そう。しかし、昨日今日とブログについて調べたのだけれど、よくわからなかったというのが実状。だって日本の個人日記と殆ど同じに見えるのに、なぜ日本ではここまで嫌悪させるのかがわからない。tDiaryと同じように見えるんだけれどねぇ。
 結局は何を言いたいか、何を書きたいか、どういう情報を得たいのか、というところに尽きるし、それならばブログや日記など方法論を問わないんじゃないのかな。仮に僕がブログをやっても、今のスタイルが変わると思えない。

02.11.24(Sun) 未確認飛行物体
 手の異常な痺れ、それが予兆だったのかもしれません。未確認飛行物体、UFOを僕は見たのです。宙を悠々と舞うそれに、恐怖を憶えずにはいられませんでした。

 UFOはいる、ような気がする。宇宙は果てしなく広く、地球の他に知的生命体がいても決しておかしくはない。我々人類の前に姿を見せていないため、いないとされているのでしょう。では人類の前に現れていないから、という理由でいないと決めつけて良いのか。これには僕なりの意見を述べたいのです。

 例えば。地球上には無数のウィルスが存在し、未だ発見されていないものも多数存在しているのは周知の事実。発見されていないからと言って、存在そのものを否定する人はいない。だから新しい細菌はどんどん発見されているし、それによって新薬は開発され、人々はその恩恵を受けているのです。

 しかしながら。例えばキャトルミューティレーションと呼ばれる、牛などから血が抜かれる現象や、ミステリーサークル。これらの怪奇現象を行った者が姿を見せていないからと言って、UFOがやったというのは早計でしょう。

 ここからが本題です。その時、右手が痺れていました。猛烈な痺れ方で握力は全く出ず、僕の手が僕の手ではないような不思議な感覚でした。足を組んでいて痺れた、あの痺れに近いかもしれません。みなさんも経験があるように、足が痺れると歩くことすら儘ならず、試しに足を踏み出すと痺れてしまい、下手をすると倒れてしまいそうな感覚。それが僕の右手に起こったのです。
 そう、事が起こった後では、それはUFOの予兆だったと、自信を持って文章化出来るほど。

 あっと思ったとき。葉巻型、いやむしろマッチ棒のような形をしたそれが、空中を飛んでいたのです。今日はかなり暖かかったのに、一瞬で血の気が引き寒くなり、恐ろしくなりました。あぁ、何たることでしょう。まさかあんなものを目撃してしまうなんて。

 手の異常な痺れ、それが予兆でした。相手のラケットが手の甲に軽く当たり、それが痺れを引き起こし、握力を低下させたのです。

 気がついた時には、ラケットは空を飛んでいました。悠々と宙を舞うそれに、僕は恐怖を憶えずにはいられません。痺れで打てるかどうか未確認のままスウィングし、飛んでいった飛行物体ラケット。恐ろしかった。

イーシーシーピー

 宇宙人大図鑑を見て笑った。宇宙人を捕まえたら是非吉本に入られたし、トップスターは約束されたようなもの。
 ところで、未確認飛行ぶっといという番組を知っているでしょうか。もうずいぶん前の番組で、しかも深夜放送で、さらにはローカル。だから知らなくても当然なんだけれど、羽野晶紀、生瀬勝久、古田新太なんていう劇団出身者が多く出ていて好きでした。このころから生瀬勝久に注目、現在の活躍はみなさんご存じの通り。

02.11.25(Mon) 雨に歌えば
 天気予報によれば今日の天気は雨、僕は鞄に傘を入れ家を出るのです。僕が家を出たときには降るか降らないか微妙な空模様、でもきっと降るに違いありません。鞄には買ったばかりの傘。今日はお披露目になるかもしれません、早く雨が降らないかな。

 夕方には案の定、雨が降ってきました。鞄から颯爽と折り畳み傘を取りだし、雨空に見せつけるように開く。こういう天気では気分も湿りがちなんだけれど、今日の僕は違います。雨の中で歌い出したい気分とはこんな感じなのでしょうか。実際に歌うのは少々恥ずかしいので、遠慮気味に口笛を吹く僕。すると、誰かが一緒に歌っているではありませんか。
 どんな人なんでしょう、顔を見てみたくて仕方がありません。それに、雨の中で歌いたくなる心境というのはどんなものなのか、ちょっと知りたいというのもあったのです。

 声の聞こえる方に顔を向けると、そこにはかわいらしいオチビさんたち。傘を忘れて雨宿りをしている様子。退屈しのぎに歌でもという心境なのでしょう。早く雨止まないかなという気持ちが心のどこかにありながら、それでもどの子もみんな楽しそうに歌っています。
 本当は外で元気よく遊びたいんだろうな、もっと自由に動き回りたいんだろうな。雨を疎ましく思っている子どもたちに対し、新しい傘の下で浮かれている僕はちょっと申し訳ない気持ちになりました。雨が降って喜ぶのは気象予報官だけで十分かもしれません。

 天気予報によれば今日の天気は雨、僕は鞄に傘を入れ家を出ました。夕方には予報通りに雨が降る。傘を取りだし歌を歌っている僕、その前で雨宿りをする子どもたち。
 傘のない子どもたち。彼らに天気予報の聞こえるはずもなく、じっと雨が止むのを待つのです。退屈しのぎにちゅんちゅん歌を歌うはすずめの子どもたち、はやく雨が止みますように。

 雨宿りするすずめたち

すずめの学校

栃尾市美術館、収蔵作品、風間四郎より

 写真を撮る直前まで大勢のすずめが雨宿り、三十羽ぐらいいたかなぁ。カメラを構えたら気配に気づいたらしく飛び立ってしまったのです。せっかく雨の中で羽を休めているのに、驚かせて雨空の中へ飛び立たせてしまい、悪いことをしました。

02.11.26(Tue) Hug
 朝から強い風が吹き、薄手のコートに風が入り込んで肌寒い。だけれど晴れていれば外には出られるのだから、雨降りよりは余程良いのです。
 街を歩いているといろんな人にすれ違う。会社帰りのサラリーマン、学校帰りの学生さん、道行く人に声をかける店の人。僕を知る者は誰もおらず、又、僕が知る者も誰もいない。風がとても寒く感じるのです。

 公園を横切ると恋人達が抱き合っている、昨日は雨のためにデートが出来なかったのでしょうか。ハグをする彼らを横目に、僕は歩みを速めるのです。
 この場所はいつか来た場所、彼女と来た公園。別れてから足も遠のき、数年ぶりで中を歩いたのです。あぁ、そんな時もあったかなぁ。強く彼女を抱きしめた感覚が腕に甦ったような気がしました。そうすると、冗談めかして強く、思いっきり強く抱きしめ返して来たっけ。とっくに捨て去ったと思っていた記憶が甦るのです。

 茶色い薄手のコート。寒くなると僕はポケットに手を突っ込み、滅多に外に出さない。それは手袋をするのが格好悪いから、あまり好きではないため。ポケットに手を突っ込んでくる彼女、無理矢理僕の手をポケットから出そうとする。それで一度喧嘩した、後で聞いたら手をつなぎたいからだって。
 それ以来、極力ポケットに手を突っ込むのはやめにして、外に出すように努めました。それがそのうち習慣化され当たり前に。
 しかし、しばらく直っていた癖も、彼女のいない次の冬の訪れと共に甦るのです。

 朝から強い風が吹き、薄手のコートに風が入り込んで肌寒い。だけれど晴れていれば外には出られるのだから、雨降りよりは余程良いのです。

 燃える恋の炎のためか恋人達は温かそう、僕はそれを横目に速歩き。

 また強い風が吹き付ける。強く抱きしめられたときのように縮こまった心を手と一緒にポケットにしまい込み、肩で風を切って歩く。速歩きをすると体は温まるはず、そのうち心も一緒に温まるかな。

冬物語り

サッポロビールより

 ちょっとした冬物語、この季節になると思い出すのです。まぁ、そんなのはビールの一杯でも飲めば忘れてしまうんですけれどね。限定物のビールは好きです、秋味も飲みました。もっともアルコールには強くないので、そんなに量は飲めません。ビール一杯でちょうど良いのです。

02.11.27(Wed) Nに起こった宇宙開発の悲劇
 地球上の人口は加速度的に増えている。こうしている間にも、どこかの国で新たな生命が誕生したかもしれない。しかしながら、地球上で生産できる食料には限りがあり、様々な事情からそれを口に出来ない者も。そうした問題のため、人類は宇宙へ望みを託し、その第一歩を踏み出そうとしているのです。

 人類は西へと開発を進めて来ました。ヨーロッパやエジプトなどからだんだんとアメリカ大陸に移り住み、ファーイーストと呼ばれた最果ての地、ここ日本にも異文化がやって来たのです。
 その間には予想もしなかった抵抗が幾多も起こる。例えば、アメリカ大陸ではインディアンによる襲撃、日本では他国からの文化流入を守る鎖国などなど。その他、船の沈没や機械の故障、戦争、その他幾多の苦難が待ち受けていました。それにも負けずに開発は行われて来たのです。

 二十一世紀初頭。地球上での開発はあらかた終わり、人類の次なる開発は宇宙へ向かいます。いや、向かわねばならなかったのです。そうしなければ、地球上における人口増加及び食料の危機的状況を打開することはかなわないのですから。

 地球上における開発の歴史において幾多の苦難があったように、宇宙開発にも苦難が伴うのかもしれません。宇宙空間は人類にとって未だ道の領域、多くの資源が手つかずのままになっています。それだけに期待も大きいけれど、不安はそれ以上。しかし、人々の開拓魂はめげません。人類のために、それが合い言葉でした。

 真空の宇宙に旅立つN。宇宙服を身に纏い宇宙空間で作業中にその事件は起こったのです。いつもの作業、慣れっこの手慣れた動作、それが慢心を生み、あのような惨事を起こしてしまうとは。
 苦しい、と思ったのは一瞬だったのかもしれません。酸素が最適の状態に保たれた宇宙服、その空気がどんどん抜けていくのです。

「助けてくれ。空気が抜けていく、息が吸えない、熱い、体の水分が外に抜けていく。何だこれは。たすけ・て・く・・れ・・・」

 最後の方は言葉になっていなかったのかも。いや、そんなことはわかりません。何せここは宇宙空間。言葉は音となり空気を伝わるのだけれど、その空気がない。だから、これは僕の想像にすぎません。Nの最後は普通では考えられないような、悲しむべきものでした。

 地球の食糧事情の悪化による宇宙への脱出、その開発途中の不幸な事故でした。Nは食料問題の犠牲になったのかもしれません。

 僕はNの哀れな最後を見届けた唯一の証人。彼のその姿を真実の下、地球のみなさんにお伝えする責務を負っているのかもしれません。見るに耐えない映像かもしれませんけれど、しかとNの姿を見てあげてください。

 肉まんの悲劇

地球(テラ)へ…

空中回廊、名作マンガを語る会、特集・竹宮恵子より

 小学生の時に見たのだけれど、アニメを殆ど見ていなかった僕は衝撃を受けたのです。そこらへんから、僕のSF好きが始まったような。まぁ、決定打はブレードランナーなんですけれどね。その後はレンズマンや火星年代記を読みあさり、サイバーパンクに流れ、ニューロマンサーで脳が崩壊し、またわかりやすいSFに戻っていきましたとさ。
 なんだ、僕の音楽遍歴と殆ど同じだわ、歴史は繰り返すのか?

02.11.28(Thu) 朝の再起動
 ほのかに湯気の立つ紅茶。ほんの少し甘い好みの味、朝のスタートとしては悪くない。いや、こと紅茶に限れば上等の部類と言えるでしょうか。だけれど、憮然とした表情で眉に皺を寄せ、僕は静かに話し始めたのです。

「再起動ってよくします?」

「ん、コンピューターの?そうねぇ、割と頻繁にするかしら。メモリあまり積んでないし」

 コンピュータを持つといろいろ悩まされることが多い。やれハードディスクの容量が足りないとか、メモリ不足でソフトが立ち上がらないとか、ウィルスに感染したとか。数え切れない問題を抱えつつも、それでも尚、コンピュータを使うことを止められない。それは何故か。答えは至極簡単、作業をするのに必要不可欠だから。

 長時間コンピュータを使用していると断片化が起こり、作業の効率を著しく損なう。だから、定期的に断片化を解消してやらなければならないのです。ハードディスクから無駄なソフトを抜いてあげるのもいいかもしれません。入れっぱなしのまま放って置いたオンラインソフトがいくつ入ってるか、数が多すぎてわからなくなってしまいました。

 小さなことが積み重なって動きを悪くする。それを人間にわかりやすい形で伝えるのがクラッシュであり、爆弾であり、ブルーバックと言えようか。それを見た人間は嫌々ながら再起動することになるのです。あぁ、文章保存してないよ、二時間の作業が無駄になった、バックアップを取っておけばよかったなんて言いながら。

「人間とコンピュータって似ていますよね」

「そうね。まぁ、コンピュータは人間に追いつこうとして開発されているのだし」

 そうなのです。コンピュータが調子が悪いと、機嫌が悪いなんて言うじゃないですか。僕はしていないけれど、コンピュータに愛着を持ち名前を付ける人だっているのだから。調子が悪い、機嫌が悪い、なんていう擬人化は当たり前。

 二口目の紅茶を飲むと少し冷めています。僕は憮然とした表情で眉に皺を寄せ、どう話を終えようか思案に思案を重ねる。しかし、彼女に先手を打たれたよう。

「で、再起動したんですか?」

「まぁ、調子が悪かったら再起動しないといけませんからね」

 やばい。顔が微妙に笑っている、これは何かを言いたいときの顔、何かを言わずにはいられないときの顔だと、僕は経験から知っているのです。彼女はすでに話の結末が見えているらしい。どうやって会話を正常な、つまり僕の思っている方向に持っていけるか。よく考えろ、考えなきゃ。

 三口目で紅茶を一気に飲み干す、冷え切った、沈んだ砂糖の甘さだけが残された不味い紅茶を。冷静さを取り戻せ、ここが肝心なところなのだから。

「で、遅刻したわけね?」

「うぅぅ、二度寝しました。ごめんなさい」

 爆弾!大クラッシュ!

 日頃のメンテナンスはコンピュータも、人も、欠かせません。さて、再起動するか。

Norton Utilities 2002

シマンテック、製品情報より

 二度寝っていうのは実に気持ちが良い、滅多にしないけれどね。したらマズイか。一度起動して、再起動。毎日のように深夜遅くまで起きていると日常生活に支障あるよなぁ、どうしても。今日は(出来れば)早く寝よう。

02.11.29(Fri) 電話は何を伝えるか
 親しい友人からの電話、もうかれこれ十年の付き合いになろうか。学生時代の友人は損得勘定で動くような、社会に出てからの人付き合いと違う。だから、僕は彼には正直に胸の内をさらけ出してきたし、彼の方でも同じように話していくれる。気心しれた仲なのです。

 将来に対する漠然とした悩みを抱え、いろいろな事に手を出しては失敗し、また違うことを始める。なんていう時期も彼にはありました。そんな時、僕らは良く合って話をし、お互い飲めない酒を飲みながら、朝まで延々と過ごしたものです。
 彼からの電話はうれしかった。どんな下らない内容でも、彼が無事元気でやっているということが聞けたのが何よりの喜び。だけれど、昔とは違う、奇妙な間が合ったのです。

 電話での彼はどこかよそよそしい。久々の電話だからそうなのか、あるいは何か重大なことを話そうとしているのか。僕は注意深く受話器から流れてくる彼の声を聞く。すると、彼の部屋の音、あるいは外の音か、サーッという雑音が聞こえてくるのです。
 会話に集中出来ない、その音の正体が何なのか気になって。どこかで聞いたような・・・潮騒のような音、風がビルの間を通り抜ける音。一番近いのはテレビ放送終了後に流れる砂嵐の音か。いずれにしても、あまり気持ちのいい音じゃない。心の乱れが電話線を伝わって流れているのでしょうか。

「今、どこにいるの?」

「自宅だよ。どこからだと思ったんだい?」

 そうだよな。あんなに冬の海は嫌いだと言っていた彼が、理由もなく海辺に近寄るわけがない。それに、まだテレビ放送終了まではずいぶんと時間があるぞ。では一体、この雑音はどういうことだろう。おかしい、やっぱり不安が電気信号に変わり、受話器を通し、電線を伝わっているのでしょうか。人間は微弱ながら電気信号を出すと言うけれど、でも、まさか。そんなことがあるわけない。

 彼と僕とは気心しれた仲なのです。僕は彼には正直に胸の内をさらけ出してきたし、彼の方でも同じように話していくれる。

 だからお願いだ、何か僕に言いたいことがあったら遠慮なく言ってくれ。

「君のところさ、電話機壊れているんじゃない?いつもノイズが酷いよ」

 電話からは依然、潮騒にも似たサーッという音が鳴り響く。

113 : 電話の故障

NTT東日本、三桁番号サービスより

 あー、前からおかしいと思っていたんだけれど、自宅の電話あんまり使わないからわからなかったわ。明日の午前中にNTTの人が来るらしい。それにしても、ADSLで普通にインターネット出来るのは何でだろう、ノイズが入ったら調子悪くなるはずなのに。

02.11.30(Sat) 気まずい関係
 幾時間にも渡って話を聞き、どうにか理解しようと努めてきました。何となく、おぼろげではあるけれど、言わんとするところはわかる。わかる気がしているだけなのかもしれないけれど。でも、僕とは根本的に相容れないものがあって、結果として相互理解はちっとも深まっていない。このまま嫌な気分で別れるのは気まずいよ。

「なんでこんなこともわからないの。ひょっとして馬鹿じゃない?」

 さすがにこんな風に言われると、こちらとしてもムッと来る。出来る限り語気を荒げぬように、僕は静かに彼女に対するのです。
 こんなに噛み砕いて説明してくれているのにちっともわからない、ひょっとして自分は馬鹿ではなかろうか。なんて内心ではビクビクとしていました。だけれど僕にもプライドというものがあります。いつまでも下手に出てればいい気になりやがって。心の奥からふつふつと怒りがわき上がり、今にも怒声をあげてしまいそう。

「こちらもわかろうと努力しているじゃないですか。それに、僕の言ったことを理解しようとしてくれてます?」

「ふん。何さ偉そうに。話が理解出来なきゃ、こんなの喧嘩にもならないわ。勉強して出直してらっしゃいよ」

 たぶん彼女はこう言いたかったに違いない。これは彼女の語調を僕の脳が判断したものであり、実際にはこう言っているのではないかもしれない。
 北野武のブラザーという映画で「ファッキンジャップぐらいわかるよ、バカヤロー」っていうセリフがあったけれど、そんなようなものに近いかも。所々わかる単語で、全体像を掴んでいる感じ。
 だから、彼女の言葉の全てを理解してはいないのです。しかしながら、単語の切れ端で何とか全体像を捉えようと必至になり、一単語も漏らすまいと耳を立てている状況。

 北野武演ずるやくざが語気で話している内容がわかったように、僕も彼女の語気で内容がわかる。そう、僕を、日本人である僕を、日本語を喋る僕を、嫌っているのでしょう。時間が経つにつれ、僕も彼女を嫌いになっているからおあいこなのだけれど。

 幾時間にも渡って話を聞き、どうにか理解しようと努めてきました。でも、僕とは根本的に相容れないものがあって、結果として相互理解はちっとも深まっていない。
 だけれど、僕は彼女のことがわかりたい。向こうにはその意志があるかどうかわからないけれど、少なくても、僕は彼女のことをもっと知りたいのです。

 気まずい空気が流れて、部屋にはコンピュータのファンの音だけが聞こえます。何かを話さなくちゃ、空白が怖い。どちらからともなく切り出した。

「今日はもう駄目ね。明日、また明日にしない?あなたに話す気があればだけれど」

「保証は出来ないよ。でも、明日。また明日、僕は君のことがもっとわかるような気がするよ」

「そう。じゃ期待しているわ」

 僕はコンピュータの電源を落としました。言葉の通じない彼女との会話は根気が必要なのです。それじゃ、また明日頑張ろうね。

 これじゃわかりようもない

Movable Type

英語。ウェブログツールとでも言えばいいのか。見ての通り国産ではなく、日本語が通らないので厄介。日本語化への解決方法を教示したサイトもあるのだけれど、いかんせん素人には難しすぎるのです。でも、もしこれが使えたら更新が楽で、どこからでも更新出来るし、カテゴライズも簡単でと良いこと尽くめ。欠点は日本語化の難しさとサーバへの負荷。由々しき問題なり。

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