天上から降る雨が傘で弾かれる。ポンポンという大粒の雨の音を聞いているのは嫌いではなかったのです。出来ればいつまでも外を歩いていたい。傘を持つ僕の隣は小柄な女の子。彼女は自分のことを女らしくないと僕に言うけれど、その華奢な肩や小動物のように怯えた目を見ると、どうしても女の子だと意識せざるを得ないのです。 二人ではいるには狭すぎる傘。彼女の肩が雨で濡れているのを払ったとき、僕は決意を固めました。よし、入ってやろうと。彼女の腰を空いている方の手で押すようにして僕らはビルへ入ります。
雨宿りに休憩しようよ、と耳元でささやく。彼女はこくんとうなずき、嫌がる様子もなく歩きます。ちょっと強引だったかなと思ったけれど、僕には確信が持てたから。彼女が絶対にうなずくって。それまでの会話から、こういうのは嫌いじゃないってわかっていたんです。
「ふかふかだね」
「うん、眠くなっちゃいそうだよ」
「でも寝たらダメよ」
「あはは、それはないって」
緊張していました。こういうところに来るといつだって緊張を強いられるのです。家の方がリラックス出来るけれど、たまには悪くない。刺激があって。興奮しているんだよ、僕は。これ以上ないぐらいに。
自分の胸に手を当ててみるとドキドキしている。心臓の音が聞かれやしないか不安だけれど、そんなことはないみたい。彼女も同じぐらいドキドキしているのかな。僕のそんな心を見透かすようにして、僕の目を覗いてくる。
「ちょうだい」
「本当に良いの?後悔しない?」
「たぶん、ね」
たぶん、か。まぁそれもいいや。彼女だって子どもじゃない、自分が何を言っているかわかっているのだし。
「トロトロに溶けてるよ。本当に欲しいの?」
「いいの。あなたのちょうだい」
僕はもぞもぞと身体を動かし位置を調節する。薄明かりの中でしっかりと目を見開き自分のものを見る。すると、情けないぐらいに柔らかだったのです。
「もうちょっと待ってよ。すぐに硬くなるから」
しばらく、彼女は手に乗せて僕のそれを眺めていました。とても恥ずかしい、まじまじと見られるような、見せられるような、そんな大層なものじゃないよ。ホントに。でも、だんだんと硬く、硬度を増してきたのがわかりました。
彼女はゆっくりと口に含み、飴でもしゃぶるように舐める。僕のものを一生懸命に。
「どう、おいしい?」
「んー、おいしいよ。とっても」
「苦くない?」
「甘いよ。苦いっていうイメージあるけれど、甘いと思う」
ピチャピチャと湿った音、チラチラと覗く赤い舌。もうじきだよ、そう何分もかからない。もうすぐだよと言うと、口から離し、にっこりと微笑む。この子、本当に好きなんだなぁ。人は見かけに依らないって言うけれど、まったくその通り。思いもよらなかったわ。 僕はそっと自分自身のものを指ですくって、口にしてみました。決して甘くはない、苦い味が口に広がります。こんなものを甘いだなんて、おかしな感覚しているな、女の子って。でも、お世辞にもおいしかっただなんて、ちょっぴりうれしくなりました。
数時間後、僕らはいそいそと建物を出る。すでに雨は止んでいました。雨宿り代わりに勢いで入ってしまったけれど、これが良かったのかわからない。でも、隣ではしゃいでいる彼女を見ると、まぁ入って正解だったのでしょう。 でも。本当にこれでよかったのか。間違いではなかったのか。だから僕は聞いてみる、聞かずにはいられない。
「どうだった?」
「とっても良かったよ、だって大好きだもん」
彼女の目はきらきらと輝いていたように思う。その目を僕は少々疲れた顔で見返します。 好きだと言ってくれて良かった、これで好きじゃない、嫌いだ、二度と見たくないなんて言われたらどうしようかと。悩み多き十代の時ほどじゃないけれど、多少なりとも傷つくかな。でも、大好きだって。ふふふ。
「そうそう、さっきのチョコもうないの?」
「あれで全部だよ。しかし、良くあんなトロトロの食べるよね」
「だって好きだもん。それに、固まってから食べたし」
僕は胸ポケットにビターチョコを入れていたのです。買ったときに胸ポケットに入れてしまって、食べようと思った時にはトロトロに溶けていました。それをあんなにおいしそうに食べるとは。
「もうあんな映画は嫌だよ。今度は違うのにしない?」
「だってホラー映画好きなんだもん、別に良いじゃない。作りものだし、怖くないでしょ?」
怖かったとは言えないよなぁ、やっぱり。それにしても、こういう映画が好きなのはどうだろう。一般的に女の子の方が怖がりだと言うけれど、僕の方がよっぽど恐がりだわ。その華奢な肩や小動物のように怯えた目を見ると、どうしても女の子だと意識せざるを得ないのにね。
■ 呪怨
ホラー映画は好きだけれど、本物のホラー映画ファンには付いていけません。映画館で見ると音の迫力も相まって、ここで怖いのが来るとわかっているのに、絶対作り物だとわかっているのに、それでもビビッてしまうのです。はぁー、こんなのよく見るよ。 |